丘の上で

Smith二人組から解放されて久しぶりにいつもの日常が戻った。今日のコスタ・デル・ソルの天気は、晴れだ。二人で進めているクエストの途中でちょっと寄って行こうかとあの丘へ向かった。心地よい風が吹いている。二人して、丘に上に座った。こうして海を眺めるのは何回目だろうか。
「まだ続くね。この旅。来月のパッチで新しいコンテンツが追加されるみたいだよ。」
彼女は黙っていた。そして僕の話には答えず。
「いつかあなたの旅が終わったとしても、私、待っているね。ずっとここで。」
僕は確信していた。はっきり言える自信があった。
「あぁ、必ず、戻ってくるよ。そして、また、一緒に冒険を始めよう。」

いつか必ずこの旅が終わる時が来るだろう。それがいつなのか僕は知らない。それまで僕は、今日を生きる。時には走り、時には立ち止まり。だって、まだ、君との旅の途中。

おしまい

お返し

光士は、なぜか、すっきりしていた。親から独り立ちしたいという変な肩肘を張る必要がなくなったからか。無理に親との関係を切る必要もないし、むやみに干渉する必要もない。お互いできる範囲で協力すればいいんだよね。一人っ子の負い目か、学生の頃は、友達からの独占の羨みや甘やかしの蔑みなのがずっと気になっていた。自分が勝手に考えすぎていただけだったと。当たり前のことに気づかせてくれたのは、この無謀な計画を一緒に遂行してくれたMoonちゃんのお陰だと思った。

そう考えていたら、居てもたっていられなくなった。会社を出るとそのまま、隣駅の彼女の勤める花屋へ向かった。駅についたときは、花屋の閉店時間が迫っていた。足早にまっすぐ花屋に向かった。光士にMoonちゃんはすぐに気が付き、突然の訪問に、どうしたのと聞いた。そしてもうすぐ店閉めるからちょっと待ってと言った。店には、赤いバラが十数本ほど残っていた。光士は、それを指して「全部花束にしてください。」と頼んだ。Moonちゃんは黙って、なんだろうと疑問に思いながら、バラを取り出し、花束にまとめた。会計をすますと閉店時間を過ぎていた。光士は、花束を抱え、ぶっきらぼうにMoonちゃんにそこで待ってると言った。花屋までは勢いできたが、Moonちゃんの顔を見たら、緊張感が生まれた。花束を抱えたらさらに緊張がたかまり、普通に話せなくなっていた。
Moonちゃんが店から出てきた。光士は、目の前に怪訝な表情のMoonちゃんがくると、花束を前に突き出し、「これからも、よろしくお願いします。」と言った。
Moonちゃんは笑顔になって、「こちらこそ、よろしくお願いします。」と言ってから、差し出された花束を受け取った。

クエスト7―ドマ

僕は、ドマへ向かった。青年の家は、医者として有名であったためすぐに見つかった。家には、青年の父親がいた。「私の手紙は、間に合わなかったのですね。」とぽつりと言った。青年に届けるはずの手紙を父親へ渡した。
昨年、青年の母親が病気になった。息子の邪魔をしたくなかった母親は、青年に病気のことを知らせることを止めていた。しかし、いよいよ、状態が悪くなったので母親に黙って父親が、青年宛てに書留を送ったのだった。青年は、母親のお墓に行っていると言いうので、その場所まで父親に案内してもらった。青年は、新しいお墓を前に手を合わせていた。僕は、それが終わるのを静かに待った。初めて会ったにもかかわらず青年とは何回も会ったことがあるような不思議な感覚を覚えた。青年は、僕からこれまで預かったすべての手紙を受け取ると一つ一つ中身を確かめた。父親は、青年に向かって「母の最期に、間に合うことができず。すまなかった。」と言った。しかし、青年は、大きく首を横に振り、「父さん、ちゃんと間に合ったよ。」とお礼の手紙を墓前に供えた。「母さんが僕に託したものだよ。形になって母さんに届けることができてよかった。ゆっくり読んでね。」と。

僕は、この後すぐに依頼元のレター・モーグリに任務完了を報告しに戻った。レター・モーグリから「時間かかりすぎ、どこほっつき歩いていたの!」と怒られた。僕の苦労も知らずに、理不尽だ。

正体バレ

ムービーが終わると、そこには二人だけしかいなかった。「あれ、マスターたちがいない」とMoonちゃんが言った。「あいさつしに行こうか」とIDから出ようとする。「ちょっと待って」とMoonちゃんを止めた。「ありがとう。なんか、すっきりした。」とSun君は、Moonちゃんにお礼を言った。「ううん、一緒にここ、クリアできてうれしいよ。」とかえした。
二人は、クエストを終えるとマスターにTellした。あいさつしたいのでどこ居ますか。と尋ねた。サブマスと二人で中央森林に居ると返ってきた。

緑が美しい木漏れ日の中に4人は集まった。
Sun君が僕に向かって「ごめんなさい。隠していたことがあります。父さん。光士です。」と正体を明かした。
僕は、「父さんは、いいけど。母さんに早く謝ったほうがいいよ。」と返した。
僕が驚ないことに驚いて、さらに「えっ、母さん?」と考え込んでいるようだ。少し間をおいて彼女が「光士、何やってんのあんた。」といった。Sun君が茫然としていると。
Moonちゃんが「Sun君ごめんね。全部ばらしちゃった。マスターは、お母様だよ。」
「か、母さん・・・・」
彼女は、「光士、一度除名されたくらいで何引きこもってるの。Moonちゃんを心配させるな。」
光士は、妙に素直に「ごめん、母さんと知らなくていろいろ、考えちゃって。父さんも疑ってごめん。ID攻略で母さんの言っていたチームプレイの意味が分かった気がする。」
彼女は、「そうでしょ。ずっと言ってきたこと、やっとわかったか。」と満足げだった。
僕は、「これからも、攻略手伝おうか」というと、Sun君は「もう大丈夫、一人で進められるよ。」とこたえる。すると「二人ででしょ!」とMoonちゃんに突っ込まれた。笑いがこぼれた。

ラスボス

3ボスへ進む。ここは、Sun君もMoonちゃんも未経験となる。大きなAOEが連続で出てくる。僕と彼女は、慣れているので、避けることができるが、Sun君とMoonちゃんは対応できず、倒れた。まず、彼女は、まず、Moonちゃんを起こし、HPを戻した。全体攻撃が来るので、HP戻しが優先だ。僕も軽減を入れて協力する。次に、Sun君を起こすのだが、詠唱時間をキャンセルできるスキルは、Moonちゃんで使ってしまった。蘇生は、長い詠唱が必要だ。その間、ヒーラーは動けない。僕はナイトだ、かばうスキルを彼女にかけた。自分とMoonちゃんにも投げられる軽減を入れた。Sun君が立ち上がる。次にAOE連続が来るので、僕は、「僕の動き見て、ついてきて」と避け方を教える。彼女もHPを全快まで戻した。全員無事にAOE攻撃をきり抜けた。

3ボスのHPの残りが10%を切ったとき、僕は、ふと攻撃の手を止めた。手を抜いたんじゃない。この時間を1秒でも長く続けたかった。それだけだ。彼女を見るとヒールしかしていなかった。同じ思いなんだなと思った。3ボスのHPが5%を切った時、「Sun君、LB!!」とMoonちゃんが叫んだ。Sun君は、それにこたえて竜騎士のLBを放った。3ボスは、討滅された。二人は、初見なのでムービーを見ていた。彼女は、僕に、「二人にしよ」と言ってきた。僕たち二人は、IDから抜け、ムービーごゆっくりというメッセージを残してパーティからも抜けた。後悔は、トナカイの着ぐるみであったことだ。IDから出るとそっと、いつものお気に入りのミラプリに戻した。

リベンジ

僕たち4人は、イベント終了後、そのまま、IDに突入した。しまった、こんな大事なID攻略に僕は、トナカイのミラプリのままだった。IDに入ってしまって切り替えられない。マスター=彼女は、今日は白魔道士だった。彼女を見ると、“何それ、キレッキレの真っ白な衣装じゃん。“ 武器も光っている。いつの間に用意したのだろう。気合が入っている。Moonちゃんもレベルにあった自作装備に統一されていた。Sun君はMoonちゃんからプレゼントされたおしゃれ装備でミラプリしていた。僕だけが着ぐるみだ。
戦闘が始まればそんなことは関係ない。タンクの役割を果たすだけだ。1ボスで、Sun君が倒れた。彼女がすかさず蘇生を入れる。「早く立ち上がって、すぐにHP戻すから」と鼓舞する。Sun君は立ち上がり、戦闘を再開した。1ボスを倒し終わると、Sun君が彼女に「蘇生ありがとうございます。」いった。彼女は、「ヒーラーの仕事だから、気にしなくていいよ、チームプレイだよ。」といった。Sun君は、“チームプレイ”、母の口癖だったなと母の顔が思い浮かんだ。

道中には、問題なく、2ボス戦に入った。2ボスは、因縁のボス戦だ。Sun君は、ここで倒れ、除名された。やはり、前回と同じギミックでSum君が倒れた。彼女が、ここでも
「早く立ち上がって、HP維持するので攻撃に集中していいよ。」と蘇生を送った。
難しいギミックは、そこだけで、その後は、Sun君もMoonちゃんも被弾したが、彼女のヒールで支えられていた。

イベント

ゲーム内は、すっかり年末の雰囲気になっていた。ゲーム内のイベントはクリスマスではない。ゲーム内に設定された記念行事だ。プレイヤーは、リアルの年末と同じような感じでイベントを楽しんでいる。イベントは、Sun君、Moonちゃん含めFCのメンバ8人が参加した。イベントは、かくれんぼだ。僕がトナカイの着ぐるみをきて、グリダニア市内に隠れる。1番最初に見つけた人が、願い事を言って、他の人がその実現に協力するという内容だ。

かくれんぼは出来レースだった。Moonちゃんが一番になる様にFCのメンバとは調整していた。知らないのはSun君だけだ。当然、Moonちゃんは、僕の隠れている場所を知っている。グリダニアのエーテライトプラザに参加者が集合、僕が、先に隠れに行って、3分後に捜索開始という手順だ。僕は、遠回りして、絶対にそこに隠れないだろうという場所、カーラインカフェに向かった。出来レースなので座ってお茶を飲み始めた。
Sun君には、マスターがついて、居場所を僕にTellしてきた。協力してくれたFCの人たちにも、面白がって適当に動いてくれた。盛り上がりの頃合いをみてMoonちゃんに発見された。みんな役者だ。Moonちゃんからお願いが発表された。「マスターさん、サブマスさんとSun君と私で未攻略の開放IDに挑戦することです。」だった。
未攻略の開放IDとは、Sun君が除名されたIDだ。

カミングアウト

Moonちゃんが、仮想テーマパーク内で使えるメッセージ機能で、Sun君に「一緒にFF14やろうよ」と呼びかけた。Sun君は、その度に「今忙しい」と返してきた。Moonちゃんの呼びかけだけでは、なかなか復帰しそうになかった。そこで、最後の手段を使うことにした。僕からのカミングアウトだ。
光士にスマホのメッセージアプリで「父さんこの前嘘ついた。ゲームやっているんだよ。FF14というオンラインゲーム。ごめんな。」
「いや気にしていないよ、どんなことやってるの。」食いついてきた。
「いろいろできるよ。今度、父さんが入っているコミュニティでクリスマスイベントもやるよ。」
このイベントが気になり、Sun君は、復帰してきた。

復帰計画

Moonちゃんは、一人納得して。「マスターさんは、お母様だったんですね。」
マスター=彼女は“お前にお母様と呼ばれる筋合いはない”と怒りをおさえつつ。
「Sun君が光士ということなのね?」「二人で何してんの?目的は何?」
彼女は、完全にお怒りモードだ。僕は、疑いから解放されて、茫然としている。
Moonちゃんは、潜入調査について全部説明してしまった。
僕は、「ゲームやっていたのを隠していたのは、悪かったと思うけど。父親を疑うとは許せないな。」
Moonちゃんは、恐縮して「ごめんなさい。光士君から相談受けて、つい。」
彼女は、完全に母親の顔になっていた。「光士は、1回除名されたくらいで。情けない。」
僕は、気持ちがわかるだけに、「そこまで言うことないのでは? ショックはショックだよ。でも疑われた身からしたらなんか許せないな。」と返す。
僕は、「Sun君を復帰させて、なんかしたいな。Moonちゃんも協力して。今回のことは、Sun君には秘密で。」Sun君復帰計画を練り始めた。

暴走

ここでMoonちゃんが突然暴走しだした。「お二人は、家族に隠していることないんですか?」と質問してきた。
「隠し事?家族に?」と二人して考え始めた。彼女は、「1日の出来事を全部話しているわけでないので、家族が知らないことはある思うけど・・・。」と答えた。
僕は、ちょっと考えた後「この前、息子にゲームやってないかと聞かれたな。とっさに、やってないって嘘ついちゃった。」
Moonちゃんは、「それです。お父様は、ゲーム内で何をされているんですか?」
お父様?????なに????
「なにって、サブマス?タンク?」
間抜けな、回答に対して、Moonちゃんが詰めてきた。
「浮気のようなことされてませんか。」
彼女がその言葉に反応して、「Jc君、浮気してんの?」
僕は、「いやいや、してないよ。」となんでこんな状況になっているのかパニックになった。
Moonちゃんがさらに彼女に向かって「マスターさんもです。お子さんまでいるのに。」
彼女も「えっ、私も??」
Moonちゃんは、「お二人は、どのような関係ですか?」とさらに詰める。
二人して、「夫婦ですけど・・・。」
「ん? 夫婦?」、Moonちゃんが突然停止した。沈黙が続いていた。
“サブマスさんは、光士君のお父様。マスターさんは、結婚していて、子供が一人。子供が一人=光士君”にやっと、つながった。
Moonちゃんは一人納得して、「あー、そうだったんですね。なんだー。早く言ってくださいよー。」
僕たち二人して、Moonちゃんに「で、何を?」。