彼女は自分のことをほとんど知らない。教育は、教皇庁から派遣された教師から一対一で受けていたと言った。読み書きはできたが、それを使う機会は、看守と言葉を交わす程度しかなかった。身の回りの世話をする大人は、話すことを禁止されているのか、異端者とは話したくないのかしゃべることはなかった。当然、面会に来る人もなかった。幽閉された狭い世界がすべてだった。
彼女は、突然何かがあってその状況になったのではなく、物心がついたときから、初めからその状態だったのだ。それが彼女の日常だった。生きたいとか死にたいとかそういうレベルの話ではないのかもしれない。竜と異端者の娘として生きることしかなかった。異端者の娘を演じることが彼女の生きる術だったのかもしれない。
看守から聞かされたことは、クルザス西部高地の僻地で陸灯台の管理と竜の監視のために赴任していた夫婦の家の近くで発見されたとのことだった。竜を追っていた、兵士に発見されたことだけが彼女を知る手がかりだった。