今日、私は、1人で黒衣の森にいる。彼との指輪を返納するために十二神大聖堂に向かっている。別に彼のことを忘れたとか、忘れたいとか、そういうことじゃない。私の心の空洞を重荷にするんじゃなく、私の大事な思い出として大切にしまっておきたいと思ったから。そのためには、握りしめた手をほどく必要があると思ったから。
今も私の左手は、残された絆を失くすまいと、あの時からずっと固く強く握りしめたままだ。この左手をもう解放してあげなきゃ。
東部森林 十二神大聖堂についた。大きく深呼吸して、聖堂の中に入る。左手の力を緩め、その手をゆっくり開いた。そして、私は、静かに指輪を助祭に返した。
十二神大聖堂を出て、振り返り、空を見上げた。今日は快晴だ。木漏れ日が美しく、鳥のさえずりさえ聞こえるようだった。
「ごめんね、誓約守れなくて。今の私をあなたは、褒めてくれるよね。あのね、あなたと私が歩いてきた道は、行き止まりじゃなかったよ。だから、私、前に進むね。もし、あなたが、ひょっこり戻ってきても、私、前みたいに気軽に会ってあげないよ。だって、私、もっと素敵になってるから。」涙がこぼれた。私が彼のために流す最後の涙だ。
道は、まだ続いている。だから、私は前に進む。私は、姫ちゃんだ。私なりのPrincessだ。私の歩みは、もう、だれにも止められない。
おしまい