金曜日、アヤちゃんが発案した花束作戦決行のため会社を早退した。奮発して大きめの花束を用意した。赤いバラメインの花束だ。
坂本さんには黙ってきた。花束を抱えて、坂本さんの会社の出口で、坂本さんが出てくるのを待った。退勤時間になって、帰る社員がぞろぞろ出てきた。坂本さんでなく、まず、長谷川に見つかった。
「お前何やってんだよ。こんなところで、そんなものもって。」
「坂本さんを出待ちしているんだよ。」
「よくわからないけど、迷惑じゃないか。」
「そうかな、アヤちゃんのアイデアでいいと思ったんだけど」
「アヤちゃんのアイデア???お前たち何やってんの?とりあえず、あそこのコーヒーショップでまってろ。坂本さんと連絡とるから」
コーヒーショップで待つこと15分。死刑宣告を受ける気分で、ものすごく時間が長く感じられた。そんな気分で、ずっと、坂本さんの会社の方を見ていた。会社の方から坂本さんが走ってきた。
「月島さん。どうしたんですか。突然。よくわかんないんですが、長谷川さんからものすごく怒られました。もてあそぶのはやめろと。そんなつもりはないんですが、傷つけたのならごめんなさい。」
「僕が勝手にやってることなので気にしないでください。これ受け取ってください。」
花束を差し出す。周囲の目も気になり、坂本さんは、戸惑いつつ受け取った。
「どうしたんですか突然。」
「僕の気持ちです。」というのがやっとだった。そんな僕に坂本さんは、
「ごめんなさい。本当に。自分の気持ち整理できていないんです。ちゃんとしなきゃダメですね。」としか言わなかった。
結局、死刑台に立たされたまま、僕は、そこに取り残された。