光士は、なぜか、すっきりしていた。親から独り立ちしたいという変な肩肘を張る必要がなくなったからか。無理に親との関係を切る必要もないし、むやみに干渉する必要もない。お互いできる範囲で協力すればいいんだよね。一人っ子の負い目か、学生の頃は、友達からの独占の羨みや甘やかしの蔑みなのがずっと気になっていた。自分が勝手に考えすぎていただけだったと。当たり前のことに気づかせてくれたのは、この無謀な計画を一緒に遂行してくれたMoonちゃんのお陰だと思った。

そう考えていたら、居てもたっていられなくなった。会社を出るとそのまま、隣駅の彼女の勤める花屋へ向かった。駅についたときは、花屋の閉店時間が迫っていた。足早にまっすぐ花屋に向かった。光士にMoonちゃんはすぐに気が付き、突然の訪問に、どうしたのと聞いた。そしてもうすぐ店閉めるからちょっと待ってと言った。店には、赤いバラが十数本ほど残っていた。光士は、それを指して「全部花束にしてください。」と頼んだ。Moonちゃんは黙って、なんだろうと疑問に思いながら、バラを取り出し、花束にまとめた。会計をすますと閉店時間を過ぎていた。光士は、花束を抱え、ぶっきらぼうにMoonちゃんにそこで待ってると言った。花屋までは勢いできたが、Moonちゃんの顔を見たら、緊張感が生まれた。花束を抱えたらさらに緊張がたかまり、普通に話せなくなっていた。
Moonちゃんが店から出てきた。光士は、目の前に怪訝な表情のMoonちゃんがくると、花束を前に突き出し、「これからも、よろしくお願いします。」と言った。
Moonちゃんは笑顔になって、「こちらこそ、よろしくお願いします。」と言ってから、差し出された花束を受け取った。