お返し

僕の日常に何の変化もなかった。サブマスターに追いつくために、ストーリーを進めていた。

イベントの谷間であり、サブマスターとかかわる機会も少なくなっていた。

2月のチョコのお返しを何にするか悩みが続いていた。ホワイトデーにちなんで、ホワイト・ミニナイトのミニオンとピュアホアイトのカララントにした。

3月になった。お返しの季節が来た。仕事の関係で、この世界に来る時間が激減していた。

彼女も理由は分からなかったが、イン時間が下がっているみたいだった。しかも、僕は、14日は、仕事で、インができなかった。

次の日、準備していたお返しをもう一度確認して、ダメもとでサブマスター連絡とった。

運よく連絡が取れて、会いに行った。リムサのエーテライト付近の雑踏の中で、会えた。

唐突に準備したお返しを渡した。ありがとうとうとだけ、返ってきた。

いつもの元気がない。雑踏に囲まれている所為なのか、会話は止まったままだった。

僕は、黙ったままたたずんでいた。彼女から場所変えようかと言ってきた。

どこがいいかなと考えた。なぜか、僕のお気に入りの場所が思い浮かんだ。あの丘に行こうと思った。彼女にコスタ・デルソルに海を見に行きましょうと言った。

二人であの丘に登って座った。ちょうど夕日がまぶしかった。

彼女に語りかけた。

「僕、この場所好きなんです。なんか、悩んだ時ややる気が出ないときに一人で、ぼーっと過ごします。」

そこから続く言葉が出てこなかった。しばらく、無言のまま海を眺めていた。

彼女から「昨日、マスターに会えなかった。」と。

続けて、

「別にお返しが欲しかったんじゃないんだ。期待してないというと嘘だけど。」

「ずっと、あこがれてたいんだよね。若葉のころに出会ってから、色々教えてもらって。」

「いつからか、好きなんだと気が付いた。」

「頑張って追いついて、一緒にFC立ち上げて、固定組んで。」

「一緒にいれば、かなうんだ、気持ちが届くんだと思ってた。」

「でもね、でも違った。隣にいるのは私じゃなかった。」

僕は何も返せなった。黙ったまま、彼女の言葉を聞いていた。

この世界の時間の進みは早い。すっかり日が暮れて星空が広がっていた。

「私バカだね。みんなを巻き込んじゃって、固定も壊れちゃって。」

サブマスターのフレンドのSTは、彼女の気持ちを知っていたんだ。だから、マスターの行動が許せなくて固定を抜けたんだと知った。

僕も、馬鹿じゃない。そんなことは、感じていた。自分の気持ちは届かないと分かっていた。でも、マスターならいいと思っていた。お似合いだし。僕も納得できていた。

絞りだすように「マスターに会いに行ってきます」といった。 彼女は制止したのかもしれないが、それを見ず、FCハウスにとんだ。

職場にて 3

バージョン1を無事納めて、お客様の評価を待っていたところ、営業から急な呼び出しがあった。ある機能の動きが全く想定と違うというのだ。

要求通りだと取り交わし文書を見せるが、このままでは困るとの一点張りだ。営業が引き取り、とりあえず費用面は置いておいて、対応してほしいと上からの指示が来た。

請負チームの担当部分だった。今まで仕様書通りに、工程がきつい中、頑張ってもらったのに、変更の件はいいづらかった。

請負チーム3名に集まってもらい。今回の件と変更方針と納期対応について説明した。

部下2名は、不満顔だった。1名は、その納期では無理とあきらめた感じだった。リーダさんは黙って目を閉じていた。リーダさんは、目を開くと、「4人チームで行きましょう。」と僕の目をじっと見つめた。

何のことかわからない。彼女は続けて、「主任さんもコード書けますよね?ならちょっと手伝ってもらいます。」と言ってきた。僕もやってもらえるなら、拒否する理由がなかった。

「あと、この方法は、難しいので、こっちの形ならいけると思う・・・・・・」

ギリギリの日程調整とこれならいけるという修正方針の発注元との交渉を任された。

ギリギリの日程として14日納品がデッドラインとなった。社に戻って、リーダさんに修正方針がこちらの要求通りに通ったことと日程はギリギリまで延ばせたと伝えた。

「頑張ったね。」と言われた。続けて「次はこっちの担当を。」と容赦なかった。

4人チーム体制が13日まで続いた。最後のテストが終わるのが、21時くらいだった。

「できたー! 終わったー!」という達成感を迎えることができた。次の日納品があるので、4人で休憩室に行き、自販機の缶コーヒーで乾杯をした。 14日は、僕と営業が納品と説明を行い。機能確認が終わって解放されたのは、夜中近くなっていた。この日は、評価を待つだけだったので請負チームには休んでもらった。

クエスト7 「竜の鱗」

次の手がかりは、竜の鱗だ。鱗からは、わずかなエーテルが感じられ個体の特定が可能ではないかとのことだった。

竜の鱗をもって高地度ドラヴァニアの聖竜の眷属に会いに行った。ここで、16年前ころから1匹の邪竜の眷属がはぐれて暮らしていることを教えてくれた。はぐれ竜に会いに行った。はぐれ竜は、娘を見るなり、大きな咆哮をあげた。威嚇でも恐れでもない、喜びの咆哮と感じられた。そして、はぐれ竜から、事の顛末が語られることとなった。

若い竜は、イシュガルドとの戦いで、傷つき、仲間からはぐれ、クルザス西部高地の陸灯台付近で動けなくなった。

クルザスには、狼やクマなど凶暴な野生動物がおり、若い竜は死を覚悟した。 そんな時、灯台守の夫婦に発見され、竜は、傷の手当てを受けた。夫婦は、戦争には無関心だった。異端者ではなかったが、ある迷信を伝え聞いていた。夫婦は、子供がいなかった。ここにきてすでに4年くらい過ぎたが子宝に恵まれなかった。竜の鱗には、子供を授ける力があるという迷信だ。完全な迷信だ。竜にそんな力はない。しかし、竜はそのおかげで助かった。お礼に、夫婦に、はがれかけた鱗を与えた。しばらくして飛べるようになった竜は、ドラヴァニアへと戻っていった。しかし、人間に助けられたため、戦う意味を完全に失ってしまった。邪竜の眷属の本拠地には、戻らず、はぐれ竜となった。

季節

2月には恋人たちの季節が来る。この世界も例外でない。イベントがきっちり用意されているのだ。イベントは楽しい。でも僕には関係のない世界なので、純粋にイベントとして楽しむつもりだった。

今年は違った。年末のプレゼントが効いたのか、サブマスターからチョコをもらった。

びっくりした。僕にだけではないことは分かっているが、うれしかった。彼女曰く、お返しの負担になるので例年は、配らないとのことだった。お返し楽しみにと言えた。彼女は、気を使わないでと言ったが、いらないとは言わなかった。

世界が明るくなった気がした。数日後、イベントはまだ続いいていた。マスターとFCハウスで会って、チョコもらった?と聞かれた。

「サブマスターにもらいましたよ。」と答えた。マスターは?と聞き返したら、サブマスターと新人にもらったと答えた。

新人も配っているんだと思ったが、僕がもらえないことには、特に何も感じなかった。そうこうしていると新人が現れた

マスターは、じゃとあいさつして、新人とルレに行った。新人は、マスターとコンテンツに行っていたのだ。

だから何だということはない、別にいいではないか。好みは人それぞれなんだから。

マスター、サブマスターがいる固定組に異変があったのはその後だった。STが抜けたらしい。理由はよくわからない。STは、サブマスターのフレンドの女子キャラだ。

レベル的に僕がSTの代わりになることもできず、固定組は、活動停止状態になった。

FCの中から代わりに手を上げる人はいなかった。

僕は、フレンド組だったが、立ち位置は、公募組と変わらないところにいた。基本的に僕は全員と等距離で、誰かと深く付き合うタイプではなかった。なので、この時、FCの変化に僕は気が付くことはなかった。

新人

公募で新しいメンバが入った。ミッドランダーの女子キャラだ。レベルは、僕より低く、初心者に分類されるレベルだ。

それでも僕が一番、ストーリーの進捗が近かった。気を使って、ルレやストーリーコンテンツに誘った。

新人は、ヒーラーだった、僕はタンクメインだったので、一緒に行くのには、都合が良かった。最初は、みんなもついてきてくれたが、さすがにレベルが合わず、僕と二人だけの時が多くなった。新人は、女子力が高いミラプリのかわいいキャラだった。チャットの話し方も姫ロールプレイが入っているのかはいっていないのかよくわからないしゃべり方だった。僕は、それがとても苦手だった。どういう風に返していいのかわからないからだ。

まあ、コンテンツに入れば、会話しなくてよいので、コンテンツのエスコートだけでして、終了早々、次の予定があると偽って解散していた。

予定は、あるのはうそではない。みんなそれぞれやりたいことがあって、時間が無いことは、同じだ。ただ、確定した予定は、僕にはほとんどない。ボッチだからだ。いくらでも予定は動かせる。フレンドとの約束はほとんどない。急に呼ばれて手伝うことくらいだ。自分から物を頼むのは苦手なので頼まなきゃならないようなコンテンツには手を出さないでいた。

新人との仲が深まることもなくいつもの日常が過ぎていった。

ある時、インするとFCハウスにマスターと新人の二人がいて、僕が混じり、3人になった。

新人が、前回のダンジョンでの話を面白く話していた。話し好きのようだ。

マスターも気を使っているのか、相づちや、質問などで盛り上げていた。僕は、そういうのが苦手なので、マスターに適当に合わせていた。

一通り話が終わり、ルレに行くことになったが、タンクは2人らないので、マスターがタンク、自分がDPSに着替えた、新人は、いつものヒーラーだった。

特に問題なく終わり、僕は、いつものように、次の予定を装い早々にパーティから抜けた。

次の日からなぜか新人は、僕を待たずにコンテンツに入るようになった。深く考えず、一人で行けるようになったんだと思った。 正直、ほっとした。別に新人と二人で行動することで、どうこう思われることはないのだが、サブマスターの事を思うと心の負担だった。

クエスト6 「商人と踊り子」

遺品からの手紙は、母親の母親、つまり彼女の祖母とのやり取りのようだった。結婚をとがめる内容、子供が生まれたことに対するお祝いなどがあったが

リムサロミンサの消印はあったのでラノシアのどこかだと思われたが、祖母の住所がわかる情報は残っていなかった。

グリダニアの手形から調べることとした。まずは、グリダニアに向かい商人に手形を見てもらった。手形は、イシュガルドと北部グリダニアのフォールゴウトの通商手形だとわかった。フォールゴウトに向かいリムサロミンサの結びつきをヒントに昔の話を知っていそうな人に聞き込みを行った。

すると20年くらい前にリムサロミンサの踊り子一座の踊り子とイシュガルドの青年商人とが恋に落ち駆け落ち騒ぎがあったと聞いた。

二人はそのまま、イシュガルドに渡ったとのことだった。イシュガルドの青年商人を知る彼は、誠実でよい人柄だったが、両親を早く亡くし 天涯孤独で、商売に励んでいた。早く家族が欲しいと語っていたようだ。父親は分かったが父方の関係はここで途絶えてしまった。

プレゼント

年末は、この世界も一大イベントがある。FCでもイベント企画があって、こういうときは、サブマスターのフレンド組が力を発揮した。

僕は、参加しただけだ。役割や芸を要求しないのは、新参で内向的な僕に気を使ってくれていたのだと思う。イベントのゲームは、よくあるサイコロ大会で各自好き番号を最初に言って、マスターがダイスを振って、一番近い数字の人が優勝となる。自分は、4等で、ミニオンをもらった。ここでも、一番でもびりでもなく目立たない位置だと感じた。

ただ今年は、FCのみんなにプレゼントを用意した。彼女だけに特別にとはとても勇気がなかったので、みんなに送るんですよという体を取った。最新のヒーラー飯が、いい感じのお菓子だったので、それを選んだ。

みんなに渡して回った。流れで彼女の番になって、たぶん当たり障りなく喜んでくれるんだろうなと最初から感じていて、その通りになった。

それでもうれしかった。僕なりに頑張ったと思う。こうして年がくれた。

嫉妬

彼女からヘルプが来た。フレの討滅戦攻略の手伝いだった。いつものように快くOKを出して、パーティに加わった。いいところを見せたくてMTでやりますよと軽口をたたいた。

ムービーアイコンで初見のキャラが確認できた。ヴィエラのイケメンキャラだった。

戦闘が始まった、見知ったコンテンツなので問題なかったが初見には厳しいか特有のギミックがあった。そのギミックがイケメン君に襲い掛かりAOEを踏んだ。ヤバい、忙しいので、ヒーラーの対応遅れ気味になる。とっさにタンクの持つ軽減を投げてイケメン君が次の攻撃で倒れることを防いだ。この動き見てるよねと、ちらっと、彼女を見た。その後は問題なく敵を倒し、戦闘が終わった。

社交辞令的に「クリアおめでとう」とお祝いのメッセージを送った。

彼女は、クリアしたイケメン男性キャラとエモートの掛け合いを始めた。他のメンバも周りでクラッカーや踊りなど楽しげにふるまっていた。

僕はその輪に入ることができないどころか、いらいらしだした。彼女に褒めてもらいたいとか、お礼を言ってほしいのではない。そうではない。

最近、彼女が男性キャラフレンドと仲良く談笑しているのを見たり、自分がいけないコンテンツに一緒に行っているのを見ると、感情がうまくコントロールできなくなっていた。いわゆる嫉妬だと思う。黒い感情に埋め尽くされた。自分が小さくて情けなくなる。

一人そっと、コンテンツから出て、パーティから抜けた。こういうときは、僕はボッチでコスタ・デルソルの丘から海をながめて心を落ち着かせる。

この場所は、好きだ、特に夕日がいいと思う。この世界の1日は、早いので、ぼーっとしているとすぐ夕日が迫ってくる。

周りには、モンスターが数体いるだけで、人はいない。一人で座っていても誰にも見つかることはない。たまに、上空をマウントが飛んでいくが、僕のことなど、気にもかけてないだろう。

クエスト5 「両親の遺品」

彼女の心は、硬く冷たい氷に閉ざされていた。当然だ。異端者の娘とさげすまれ、誰とも交流がないまま育ってきたのだから。

しかし、幽閉されていた時より解放されてからの彼女の方が生きる意味を見失っていた。いきなり、何者かを決定づけられていた環境から、何者かが曖昧になった環境に急に放りだされたのだから。自分は何者か、なんで生まれたのか急に知りたくなった。彼女をそれだけが動かしていたのかもしれない。まずは、発見された場所に向かおうということになった。

陸灯台は、ルザス西部高地の北部の低い丘の上にあった。高地ドラヴァニアとアバラシア雲海、イシュガルドを結ぶ交通路の指標となるためだ。 そこには、既に当時の様子はなく、何代も後任の灯台守が住んでいた。しかし、竜の話は、代々語り継がれており、夫婦の遺品が残されていることが分かった。竜のうろこ、何通かの手紙、グリダニアの通商手形があった。

マスター

マスターは、積極的に話しかけるタイプの人ではないが、質問などには、親切に答えてくれる、頼れる存在だ。

もともと、マスターとサブマスターを中心に仲の良いメンバでFCを作ったらしい。初期メンバの何人かは引退したようだが、僕のように新しく入ったメンバも何人もいる。僕が最後に加入した一番の新参者だ。マスターのフレンドつながりの加入者はほとんどおらず、自分のようなサブマスターのフレンドからの加入が半数くらい。あとは、公募による参加だった。

マスターは、フレンド組にも、公募組にも分け隔てなく、公平に接しており、誰にも親切だった。そこは、サブマスターも同じだったが、フレンド同士は、やはりサブマスターとつるむことが多かった。

僕は、元来のボッチ気質だったので、フレンド組の輪には、なかなかなじめなかった。

FCハウスでたまたま、マスターと二人だけになった時、サブマスターをどう思うか聞かれた。どういう意図かわからず、自分の気持ちを見透かされているのかドキッとした。

「何時もよくしてもらっており、親切な方です。」と答えた。

ちょっと間が空き、マスターから、ルレへの参加提案があったので、一緒に行った。 タンクメイン同士、マスターとは、気が合うと感じていた。この人なら彼女が一緒にいても仕方ないかなと思った。マスターに対しては、不思議と嫉妬のような黒い感情は、わかなかった。