帰り道

店をでた後、二人並んで駅に向かった。駅までの路地は狭いのに、車がけっこう入ってくる。自然と彼女をかばうように僕が前に出て、縦に並んだ。しばらく黙って、歩いていた。
後ろから、いきなり彼女が切り出してきた。「ごめんね、いつも勝手なことばかりして」
「FC作ったのは、Yさんと二人だけでコンテンツにいかれたくなかったからなんだ。私が、マスターになったのも君に、マスターを強要したくなかったからだよ。素直じゃないんだよ私。でも怖がりなんだよ。だから強がって見せてるんだよ。」
僕は振り向かず黙って聞いていた。そんなこと、全部知ってるよ、全部分かっている。そして、「僕こそ、ごめん、長い間、待たせちゃったね。」と、前を向いたまま言った。彼女に聞こえるように大きな声で。
それから、いきなり彼女の方に振り向いて「結婚してください。」といった。
「なんだよ、いきなり。泣かせんなよ。」と、彼女はくしゃくしゃの笑顔で泣き出した。

僕は、これまで何度も失敗し、挫折を経験してきた。後悔もたくさんある。いつのまにか諦めることを覚え、諦めて、忘れて、振り返らず、見ないようにしてきた。でも失いたくないものもあるんだ。忘れられない人もいるんだ。今の自分に立ち向かう力は、足りていない。そんなことは知っている。だから何度も床に転がる。でも、何度でも立ち上がるよ、僕は、誰かの光の戦士なんだから。

おしまい

オフ会

Yさんからクエストクリア記念のオフ会の提案があった。
「私幹事やります。会社の近くに、いい感じの店、見つけたので予約します。いつが都合いいですか。FCフォーラムを建てるので、コメントください。」
オフ会は、月末の金曜日の19時に設定された。
Spark君は、現地集合で、僕とYさんと彼女の3人は、会社から一緒に向かうつもりだった。しかし、Yさんから「ちょっと仕事で遅れるので、二人で先に行ってください。」とメールが来た。
彼女と二人で先に店に向かった。店につくと、Spark君は、まだ来ていなかった。19時ちょっと前なので、もうすぐ着くのかなと思った。すると、店員さんがお揃いですね。飲み物はいかがなさいますか?とドリンクの注文を取りに来た。???、まだ揃っていないので待ってほしいと答えると。お二人様でご予約いただいていますと返された。えっとなるとちょうど、僕のスマホにYさんからSMSが入った。「先輩、ごめんなさい。Spark君と私は、デートなので、いけません。二人見てると、もう、じれったくて。店の代金は、先輩もちでお願いします。」彼女にそれを見せる。気まずくなったが、店を出るわけにもいかず、とりあえず、食事を始めた。二人だけで、オフで会うのは初めてかもしれない。そう考えるとなんかドキドキした。お酒が入ったためか、思い出話を結構したと思う。彼女に対して文句になっちゃったかなとトイレに立った時ちょっと反省した。

職場にて4-アルゴリズム

僕の仕事がうまく行っていないことは、彼女にも噂で伝わり、あの朝のことは、彼女から特に何も言われなかった。
また、突貫工事がうまくいくわけもなく、納めた製品の動きに顧客からダメ出しが来た。行き詰って、本当はだめなのだが、YさんがSpark君の専門分野に近いというのでちょっと相談してみた。Spark君は、「古いアルゴリズムですね」といって、「これが良いですよ、枯れてますし」と、オープンなライブラリを紹介してくれた。「商用利用も可能ですから組込んでも問題ないです。一応ライセンス貼っておきますね。」と続けた。
僕は、Spark君をこの人完璧だと思った。
早速修正に入った。彼女には、心配かけたくなかったので何も言わなかった。実際は、そういう関係なのかも自信がなかったのが本音だと思う。しかし、彼女は、Spark君から状況を聞いていて、僕に「戦闘飯大量に作って待ってるから、早く戻ってこい」とメッセージを送ってきた。
Yさんとソフトを完成させて、再納品したところ顧客から無事OKが出た。
この後、YさんとSpark君が今までより親密になったと感じたのは気のせいだったのだろうか。

職場にて3-相談

Yさんから仕事の相談が来た。今回の仕様の一部分のアルゴリズム難しくて、作りこみが間に合っていないと。僕もちゃんと確認できていなかったので、その部分を確認した。周りの同僚や先輩、上司に相談したが、顧客独自の仕様のようでよくわからなかった。しかも顧客に問合せても、実は、前任者が辞めてしまい、よくわからないので、前世代の機種と同じにしてとしか回答がなかった。前世代はうちで対応していなかった。そのためYさんも一人で悩んでいたようだ。とりあえず、今から頑張ろうと二人で、始めたが、あっという間に時間が過ぎ、終電が過ぎでも完成できなかった。Yさんも変なスイッチが入ってしましい。黙々とコードを書き進めている。先輩の僕が成長の機会を止めるわけにもいかないと、一緒に徹夜することにした。朝には、何とか完成した。眠さのピークも過ぎて、二人で休憩室で朝食をとることにした。僕も変なテンションになってし、自販機のパンをかじりなからYさんと笑いあっていた。そこに彼女がはいってきた。朝のコーヒーを買うためだ。妙なテンションの二人をみて、ただ、おはようと言って出て行った。変なテンションのまま、Yさんが「彼女とはどうなんですか?」と聞いてきた。僕は、変なテンションから急に素に戻って、どうなんだろうと黙ってしまった。Yさんは、変なテンションのまま「だめですよ、ほっといちゃ。他の人に取られちゃいますよ。」といった。こいつ飲んだら面倒な奴だなと思ったと同時に、素のまま、二人の関係について考えていた。

職場にて2-接点

請負リーダー=ララフェルのフレンドは、3歳年上だった。ゲームで先に知り合ったので年の差は、あまり感じない。仕事を一緒にやっていたときは、たまに職場の飲み会に行くことはあったが、二人だけでリアルで会ったことは、未だになかった。ゲームでは、相棒なので、すごく曖昧な関係だった。先のFC(フリーカンパニー)の件もあるからか、彼女からのアブローチは特にない。僕もオンライン、オフラインを律儀に分けていたので、特にリアル側での付き合いは意識していなかった。
異動になったのでリアルの接点はますますなくなった。フロアは、同じなので、休憩室なのでたまにはすれ違うことはあった。当然挨拶はする。挨拶だけだ。
Yさんから、弟にゲーム機選定させて、ソフトも買わせて、キャラ作ったよ。と連絡があった。仕事は順調なので特に文句はない。ちゃんと、僕と同じサーバにキャラがつくられていた。弟さんが、ゲームに詳しく、ゲームの開始を手伝ってくれたとのことだった。
じゃあ、ゲーム内で会おうかという流れになった。Yさんは、リムサロミンサの巴術士で始めていた。かわいいやつを弟さんに聞いたらこれになったそうだ。確かにカーバンクルはかわいい。リムサの冒険者ギルドのある溺れた海豚亭で待ち合わせることとなった。

職場にて1-異動

僕の仕事の状況も変わっていた、以前の請負管理を含めたプロジェクトの一部管理から社員の部下の育成を含めたチームに移った。請負チームとは疎遠になった。
異動の理由は、ポジティブな理由で、チーム指導力が高く、困難な仕事にも前向きに取り組んでいることが評価されたようだ。すべて、請負リーダさんのお陰なんだけど。まあ、仕事なので、変化は受け入れなければならい。
部下には、2歳年下の女性社員が割り当てられた。彼女に仕様の作成及び進捗管理方法をOJTで指導することとなった。後でわかるがとりあえず、便宜的Yさんと呼ぶことにする。
最近の若者との接し方がわからない。世代はそんなに変わらないので僕の問題かな。
僕のパソコンのデスクトップの壁紙は、JcのSS(スクリーンショット)ままにしている。画像は時々変えている。最近は、おしゃれする余裕もできてきたので、戦闘服でない、おしゃれ装備の時の画像も増えてきた。
おしゃれ装備がYさんの興味を引いたのか、その画像なんですかと聞いてきた。
これは、FF14の僕のキャラの画像だよと教えてあげた。彼女は「そんな服着れるんですね。ゲームって鎧とか着ているのかと思った。」と驚いていた。
「戦闘服もいっぱいあるよ。おしゃれ着も。女子キャラにはもっとかわいい服もあるよ。」
「わたしもやってみたい。弟がゲームに詳しいので聞いてみよう。」
自分に、ゲームのことを振られなくてちょっと安心した。一応、始めるなら、僕のいるサーバでキャラ作ると一緒に遊びやすいよと、あくまでも社交辞令的にサーバ名を教えてあげた。

身バレ

請負チームに次の新しい製作の仕様の説明を行った。自分のパソコンで資料をプロジェクターに写し、説明した。説明が終了し、資料を閉じた。デスクトップの壁紙は、JcのSSのままだ、いままで身バレしたことはないので、ずっとそのままにしている。

Jcの雄姿が大きく、スクリーンに映し出されている。誰の興味を引くこともなく、片付けが終わった人から会議室を出ていく。

僕は、機器の片付けがあるのでいつも会議室からの退出は最後だ。なぜか、リーダさんが席から立たず残っていた。

ぽつりと「もしかして、ジェーシーさん?」。びっくりした。初めての身バレだ。

当然彼女のキャラが誰なのかわからない。「そうです。ヒカセンさんですか?」と返した。

彼女は、寂しそうに「私もやってた。」とつぶやいた。「引退されたんですか?」と聞くと「いろいろあって」と消えるようにつぶやいた。なんと返せばよいのだろう、周りでやめた人で知っているのは、彼女だけだ。ただ確信はない。

僕も「いろいろありますよね。私もFC抜けました。またボッチです。でも、何度でもやり直せばいいじゃないですか。ゲームなんだから。」本心なのか、当たり障りのない回答を選んだのかわからないまま言葉を返した。それに対して、さらに小さい声で彼女は、「そうですね。」とつぶやいた。そこで会話は終わった。

職場にて 4

FCのごたごたが心に引っかかったまま、仕事には向き合わなければならなかった。翻って仕事は、順調だった。特に請負チームと僕のコラボの4人チームは連帯感が生まれた。無理な仕様変更の案件達成がLight Partyでのダンジョンクリアと重なった。パソコンのデスクトップの壁紙を自キャラJc CrashのSSに変えた。なんか、仕事中もキャラから力をもらっている感じがした。請負リーダさんに改めてお礼を言いに行った。

リーダさんは、コーヒーを片手に休憩室でたたずんでいた。

「無事納品できました。ありがとうございます。これも請負チームの協力のおかげです。」

なんかリーダさんは、ちょっと元気がなかった。

「いいえ、仕事ですから」 とだけ言って、自席に戻っていった。残業続きだったため疲れているのかなと思っただけで、それ以上は深く考えなかった。それより自分には、次の仕事が入り、その調整の方が気にかかっていた。

お返し

僕の日常に何の変化もなかった。サブマスターに追いつくために、ストーリーを進めていた。

イベントの谷間であり、サブマスターとかかわる機会も少なくなっていた。

2月のチョコのお返しを何にするか悩みが続いていた。ホワイトデーにちなんで、ホワイト・ミニナイトのミニオンとピュアホアイトのカララントにした。

3月になった。お返しの季節が来た。仕事の関係で、この世界に来る時間が激減していた。

彼女も理由は分からなかったが、イン時間が下がっているみたいだった。しかも、僕は、14日は、仕事で、インができなかった。

次の日、準備していたお返しをもう一度確認して、ダメもとでサブマスター連絡とった。

運よく連絡が取れて、会いに行った。リムサのエーテライト付近の雑踏の中で、会えた。

唐突に準備したお返しを渡した。ありがとうとうとだけ、返ってきた。

いつもの元気がない。雑踏に囲まれている所為なのか、会話は止まったままだった。

僕は、黙ったままたたずんでいた。彼女から場所変えようかと言ってきた。

どこがいいかなと考えた。なぜか、僕のお気に入りの場所が思い浮かんだ。あの丘に行こうと思った。彼女にコスタ・デルソルに海を見に行きましょうと言った。

二人であの丘に登って座った。ちょうど夕日がまぶしかった。

彼女に語りかけた。

「僕、この場所好きなんです。なんか、悩んだ時ややる気が出ないときに一人で、ぼーっと過ごします。」

そこから続く言葉が出てこなかった。しばらく、無言のまま海を眺めていた。

彼女から「昨日、マスターに会えなかった。」と。

続けて、

「別にお返しが欲しかったんじゃないんだ。期待してないというと嘘だけど。」

「ずっと、あこがれてたいんだよね。若葉のころに出会ってから、色々教えてもらって。」

「いつからか、好きなんだと気が付いた。」

「頑張って追いついて、一緒にFC立ち上げて、固定組んで。」

「一緒にいれば、かなうんだ、気持ちが届くんだと思ってた。」

「でもね、でも違った。隣にいるのは私じゃなかった。」

僕は何も返せなった。黙ったまま、彼女の言葉を聞いていた。

この世界の時間の進みは早い。すっかり日が暮れて星空が広がっていた。

「私バカだね。みんなを巻き込んじゃって、固定も壊れちゃって。」

サブマスターのフレンドのSTは、彼女の気持ちを知っていたんだ。だから、マスターの行動が許せなくて固定を抜けたんだと知った。

僕も、馬鹿じゃない。そんなことは、感じていた。自分の気持ちは届かないと分かっていた。でも、マスターならいいと思っていた。お似合いだし。僕も納得できていた。

絞りだすように「マスターに会いに行ってきます」といった。 彼女は制止したのかもしれないが、それを見ず、FCハウスにとんだ。

職場にて 3

バージョン1を無事納めて、お客様の評価を待っていたところ、営業から急な呼び出しがあった。ある機能の動きが全く想定と違うというのだ。

要求通りだと取り交わし文書を見せるが、このままでは困るとの一点張りだ。営業が引き取り、とりあえず費用面は置いておいて、対応してほしいと上からの指示が来た。

請負チームの担当部分だった。今まで仕様書通りに、工程がきつい中、頑張ってもらったのに、変更の件はいいづらかった。

請負チーム3名に集まってもらい。今回の件と変更方針と納期対応について説明した。

部下2名は、不満顔だった。1名は、その納期では無理とあきらめた感じだった。リーダさんは黙って目を閉じていた。リーダさんは、目を開くと、「4人チームで行きましょう。」と僕の目をじっと見つめた。

何のことかわからない。彼女は続けて、「主任さんもコード書けますよね?ならちょっと手伝ってもらいます。」と言ってきた。僕もやってもらえるなら、拒否する理由がなかった。

「あと、この方法は、難しいので、こっちの形ならいけると思う・・・・・・」

ギリギリの日程調整とこれならいけるという修正方針の発注元との交渉を任された。

ギリギリの日程として14日納品がデッドラインとなった。社に戻って、リーダさんに修正方針がこちらの要求通りに通ったことと日程はギリギリまで延ばせたと伝えた。

「頑張ったね。」と言われた。続けて「次はこっちの担当を。」と容赦なかった。

4人チーム体制が13日まで続いた。最後のテストが終わるのが、21時くらいだった。

「できたー! 終わったー!」という達成感を迎えることができた。次の日納品があるので、4人で休憩室に行き、自販機の缶コーヒーで乾杯をした。 14日は、僕と営業が納品と説明を行い。機能確認が終わって解放されたのは、夜中近くなっていた。この日は、評価を待つだけだったので請負チームには休んでもらった。