彼女は、喧騒の中での会話が気になったのか
「ちょっと場所変えようか、静かな場所ないかな」
彼女は新生エリアしか行けないので、夜がきれいな場所を考えた。この世界は、今夜だった。星を見に行こうと思って南ザナラーンのサゴリー砂漠に向かった。
砂漠の端に座って、星空を眺めた。く黙って、空を見つめていた。しばらくして彼女は、また話し始めた。
「お返しももらったし。エンドロールも観たから。うん。私は、あの頃には戻れないよ。それが確認できたから。」
「まだ、ストーリーには続きがあるよ。」と引き止めることが良いことなのかわからなかったけど、引き留めるように言った。
「ストーリーが楽しかったから、戻ってくるかもしれないけど、もう、こういう形じゃないよ。その時はその時で。…さようなら」と別れを告げられた。それに対して僕はちょっと考えた。彼女なりに出した答えだと納得した。
「ありがとうでいいのかな。」と、僕のことを心配してくれていたことにお礼を言った。
「私も助けてもらったから、ありがとう。」
「さようなら」と僕も別れを言った。
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エンドロール
戦闘終わると長いムービーが続く、だから僕は、「クリアおめでとう。ムービーごゆっくり。」とメッセージを残して、PTから抜けた。
一人静かな時間を過ごす。しばらくして、クレエさんから連絡が入った。
「今、話しできますか」だった。
「大丈夫です。」と返す。僕がキャラを放置していたマーケット付近に彼女を呼んだ。
「私、このゲームやめようと思います。楽しいから、また始めるかもしれないけど。一旦は区切りがついたから。」
「どうして」と理由を聞く。
「うーん、シンキさんが元気になったからかな。」
「僕の日記を見てきたの」と僕は確認する。
「そう。疲れたって書いてあったから。友達がずっと一緒だと思ったのに、何でと思ったから、来てみた。でも、一緒じゃなかったんだね。FCに入ってちゃんと話できた?」
彼女は、全部分かっているようだった。
「マスターと話したよ。昔の話も全部聞いた。」
「彼女と話したんだね。そうか。じゃ、もう大丈夫だよね。私ね、卒業の間近に彼女の気持ちを聞いた。その時。彼女から小学校からの話を。チョコあげちゃったけどね、私。」
「あの時、チョコありがとう。進路も決まらず、何もできなくて、かっこ悪いね。」
素直な気持ちを返した。
何も知らない
僕は、追いかけられるような人間じゃない。と思う。幻想だよ。僕の知らない思い出と記憶。現実の僕は、ゲームで体を壊すような生活をしていた。今は、そのゲームも中途半端に投げ出した生活。マスターは、実際の僕のことなんて何も知らない。
そんなことを考えているときに、レクエさんから手伝いの連絡が入る。新生2.0の最後の討滅戦。4人で挑む討滅戦だ。僕はタンクを選択した。
「区切りの戦いですね、がんばっていきましょう。行きますね。」
「はい、最後の戦いです。頑張ります。」と彼女は答えた。
CFに申請するとすぐにシャキった。アルティマウェポンとの戦い。僕は何度も戦ってるけど、彼女は初めてだ。すぐにシャキって僕たち二人を加えた4人PTで、無事、攻略を終えた。
後悔
「その子とは小学校、中学校も同じだったのに一緒のクラスにならなかった。その子が受ける高校は、その子と同じクラスの友達に進路を聞いた。同じ高校を受けた。一緒のクラスに初めてなったのは、3年生になった時。隣の席になった時は、びっくりした。でも進路もあったし、きっかけもなくて、その子、浪人しちゃったから、それっきり。だけど、ここにいるの見つけたから来た。ここにきてもきっかけが無くて。でも止めちゃうという日記を見つけたから、だから今度は、声かけなきゃ後悔するって。」
僕のことだ。知らんふりしても仕方ないと思ったから
「思い出しました。」と答えた。
「サブマスのこと、考えてください。」と言って、彼女はどこかに行ってしまった。
思い出
僕は昔のことを思いだそうとした。そうだそんなことあったかな。帰り道、前を歩いていた女の子が転んで倒れたことがあった。僕は、彼女が怪我してたから、家まで送ったんだ。その時、彼女のランドセルと僕のランドセル両方を持てなかったので、僕は、自分のランドセルをその場に置いて、彼女のランドセルを背負って、彼女を支えて、家まで送ったんだ。僕は自分のランドセルのことが気になってた。だから、彼女の家に着くと、彼女の家のインターフォンを押して、すぐに置きっぱなしにした自分のランドセルの場所に戻った。ピンポンダッシュみたいになっちゃったから、そのまま誰にもそのことは言わなかった。僕にとっては、忘れてもいい記憶だった。
昔話
レクエさんが言った「邪魔しちゃう」という意味が解らなかった。FCハウスの庭で考え込んでいるとマスターに話しかけられた。
「話していいかな。」と聞かれたので
「はい」と答える。
「昔ね、助けてもらった、ある人に。それからずっと追いかけてたよ。」
「消しゴムのこと?」と僕は、中間テストのことかと思って確認した。
「消しゴム?」彼女は、何のことかわからないようだった。
「小学生2年生のとき。一人で帰りに下り坂で転んじゃった。手と膝を擦りむいた。私、体が小さくてランドセルが重かったから。倒れた私を見て、後ろから来たその子が、私のランドセル持ってくれた。それから肩を貸してくれて、家まで送ってくれた。家についたら、その子は、そこで直ぐ帰っちゃったから、お母さんにも助けてもらったこと言えなかった。」
元気
二人とも黙ってしまい、それに耐えきれず、僕は、その場を離れた。
マドンナが相談した友達は、レクエさんなのかな。彼女がマドンナを応援したのに何でここに来たのだろう。
そんな時、レクエさんから連絡が来た。次のIDを開けたので手伝ってほしいとのことだった。攻略後、彼女から話しかけてきた。
「最近どう。元気。」だった。
「元気だよ。なんで。」
「元気になったんなら、もういいかな。私は、また、邪魔しちゃうから。」
「どういうこと。」
「ううん、なんでもない。今日はこれで出ます。」
彼女は、帰っていった。僕は一人残されて、僕の調子が彼女と何の関係があるのかわからず考え込んでいた。
気づかぬふり
「私ね、友達からもてるねとか言われてたんだけど。自分ではよくわからない。自分の顔は自分では見ないし、中身平凡で特にとりえもないから。」
「そうなのかな。」僕の方がわからないよ。なんで僕なんか追ってくるのか。マドンナなんだよね。
「だから、友達に相談してみた、気になる人がいるって。ちょっと驚いた感じだったけど、私なら大丈夫って応援してくれたんだよ。でも卒業で離れちゃって。それっきりだった。SNSとか見てたら、このゲームに居るの見つけた。」
「そうなんだ。」僕は気が付かないふりを続けた。
「だけど、きかっけがなくて、同じ世界で同じ時間と風景を共有できるだけでうれしかった。ずっと。」
「そうなんだ。」としか僕は答えなかった。
再確認
マスターの行動が謎だった。だから僕は、なるべくマスターと二人だけにならないように行動していた。FCメンバがいるときだけルレなどのPTに入っていた。ある日、FCメンバがリアルの都合で途中で抜けてしまい、マスターと二人だけになった。やはり聞かれた。
「サブマスの件、どうかな?」
「すみません。FC抜けようと思ってます。プレイスタイルが合わないかなと思ってます。」断る理由も見つからず、とっさに抜けると言った。理由は適当だった。
「私の話していいかな。」とマスター。
「どうぞ」
「ある人、追ってこのゲーム始めたの。その人どんどん進めて、どんどんうまくなって。忙しくなって。ずっと話かけられなかった。」
僕のことかなと思ったが、マドンナが何で。
プレゼント
僕は、唐突にレモンカードザッハトルテを渡す。
「こんにちは、これプレゼントです。」
彼女は戸惑っているようで
「ありがとう。どうしたの。」と聞いてきた。
「理由ですか。うーん、一緒にいろいろやってて楽しいから。感謝の気持ちです。」
と、お返しであることも実名も明かさなかった。
「感謝ですか?手伝ってもらってるのは私の方だよ。」
と彼女は、僕の返しが意外のようだった。僕は、あの時できなかったことをここでも繰り返したくなかった。
「ただ、楽しいことへの感謝じゃだめですか。」
「だめじゃないよ。昔の話だけど、私も渡したことあるから。その時は、答えもらってないけど。」
それはあの時のことかな。
「僕は、今、忙しくないし、特に困ってもいないから。いつもの様に遊びませんか。」
僕はあの時の事の言い訳として現状を説明した。いつもの様に一緒にルレに行った。