店をでた後、二人並んで駅に向かった。駅までの路地は狭いのに、車がけっこう入ってくる。自然と彼女をかばうように僕が前に出て、縦に並んだ。しばらく黙って、歩いていた。
後ろから、いきなり彼女が切り出してきた。「ごめんね、いつも勝手なことばかりして」
「FC作ったのは、Yさんと二人だけでコンテンツにいかれたくなかったからなんだ。私が、マスターになったのも君に、マスターを強要したくなかったからだよ。素直じゃないんだよ私。でも怖がりなんだよ。だから強がって見せてるんだよ。」
僕は振り向かず黙って聞いていた。そんなこと、全部知ってるよ、全部分かっている。そして、「僕こそ、ごめん、長い間、待たせちゃったね。」と、前を向いたまま言った。彼女に聞こえるように大きな声で。
それから、いきなり彼女の方に振り向いて「結婚してください。」といった。
「なんだよ、いきなり。泣かせんなよ。」と、彼女はくしゃくしゃの笑顔で泣き出した。
僕は、これまで何度も失敗し、挫折を経験してきた。後悔もたくさんある。いつのまにか諦めることを覚え、諦めて、忘れて、振り返らず、見ないようにしてきた。でも失いたくないものもあるんだ。忘れられない人もいるんだ。今の自分に立ち向かう力は、足りていない。そんなことは知っている。だから何度も床に転がる。でも、何度でも立ち上がるよ、僕は、誰かの光の戦士なんだから。
おしまい