二人で電車に揺られていた。電車は海に向かっている。
駅から海沿いの公園を散策し、海が見える高台の公園についた。前に座ったベンチにまた座った。前回よりもちょっと気温が高くなっているけど、海風が涼しく、心地いい。
坂本さんは、荷物からポットとサンドイッチを出した。彼女は、カップにコーヒーを注いで、僕に渡した。そして、サンドイッチを差し出した。サンドイッチは彼女の手作りだった。
彼女は、「おいしいかわかりませんが、手作りですよ。」と言った。
一口食べて「おいしいですよ。本当に」本当においしいと思った。
優しい風が吹いていた。海を眺めながらサンドイッチをほおばる。
「坂本さん、僕と付き合ってください。」
「はい、よろしくお願いします。でも、ゲームのチャラ男は、私だけにして下さいね。」
優しい風が吹いている。
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整理整頓
「一緒に観たんですか?」とアヤちゃんが驚いた。“あれ?なんなんだろうこの違和感。”
「その後、食事して、多才なライバルが現れて、海行って、こんがらがって、花束渡して、今に至る。」
と僕も返す。“あれ?プレゼントの品・・・”
“海に一緒に行った!? 同じ映画見て・・・・海行って・・・・花束もらって・・・・・。”
「もしかして、バッドさんって月島さんですか。」
「えっ、アヤちゃん、なんで僕の本名を知ってるの。」
「やっぱり、月島さんなんですね。」
「そ、そうだけど。」
“同じ映画見て・・・チャラ男からのプレゼントの話聞いて・・・海行って・・・花束贈って・・・。”
「あれ、アヤちゃんって、もしかして坂本さん?」
「そうです・・・・。」
しばらく沈黙が続いた。僕たちは、今まで何をしていたんだろう。僕は、PCの前で、大爆笑した。可笑ししぎて、涙が出てきた。二人で今までのことを整理して、FCハウスへ向かった。
マスターの長谷川を2人して詰めた。
アヤちゃんの第一声の抗議。「なんで早く言ってくれなかったんですか?」
僕からも「早く教えてくれよ、おかしなことになったじゃん。」と支援。
長谷川はそれに対し、しれっと、
「あれ、知らなかったの?知ってると思ってた。でも、個人情報だしね。会社の同期なんだからバッドには手を出すなと事前に注意してただろう。というか、花束の時点で普通気が付くだろ。」
と本当に、僕たちがお互いの本名を知らないことを知らなかったようだ。
勝負
オーシャンフィッシングの勝負は、あっさり勝敗が決まった。僕の完敗だ。餌からして僕は知らない。スキルの使い方も知らないので、得点は散々だった。“僕は、オンライン陸釣り専門なんだよ。”と謎の言い訳を自分にした。
「私の勝ちです。キャバクラ通いは、やめてもらいます。当分禁酒です。」
「わかったけど、なかなか元のチャラ男には戻れないよ。」
「そっちはいいです。戻らなくても。では、バッドさんのリアル対象と勝負させてもらいます。どんな方ですか」
「どんな方って、説明しなきゃダメ?だめだよね、負けたんだから。いや、映画好きで落ち着いた感じのキュートな方です。」
「全く私と同じですね。キュートかどうかわかりませんが、今のところ同点です。」
「同点の意味が分からないけど、アヤちゃんも映画好きなんだ。最近何観たの。」
「あれと、あれですね。」“月島さん元気かな。どうしてるだろう。”
「僕もそれ見ましたよ。一緒に」“坂本さん元気かな。どうしてるだろう。”
挑戦状
僕は、自暴自棄になって、キャバクラ通いを始めた。当然オンラインだ。オンラインなので家飲みだ、家路を気にする必要が無いので返って飲みすぎた。そんな毎日を見かねたアヤちゃんが、僕に忠告してきた。「だめですよ。そんなに飲んじゃ。体壊します。」
「忘れたいんだよ。いろいろ。あっちでも、こっちでも、うまく立ち回れない自分が嫌になっちゃたんだよ。」
「だめです。そんなバッドさんは私が許しません。私と勝負してください。私が勝ったら、生活改めてもらいます。そして、リアル対象と私と勝負させてもらいます。もし、私が負けたらもう一度、真剣に相談に乗ってあげます。私負けませんから。」
「なんかこわいな。で、何するの。」
「オーシャンフィッシングいって、点数が高い方が勝ちです。」
“こいつ、僕が釣りが下手なのを知っての勝負か。”どこからその情報仕入れたんだ。さすが女子の情報網だと思った。
報告
とりあえず、花束作戦の顛末を報告するためアヤちゃんを呼び出すことにした。ただ、マスターに見つかりたくなかったので、FCハウスにではなくカーラインカフェに呼び出した。
アヤちゃんは、開口一番「花束渡せましたか?」と聞いてきた。
「渡したけど、なんか心の整理をつけたいとか何とか言ってはぐらかされちゃったよ。」
「なんか、私みたいな人が他にもいるんですね。私も整理したいので、ちょっといいですか?」
正直、何だよこんな時にと感じた。
「どうぞ」と投げやりに応じた。
「バッドさんは、なんで私にやさしくするんですか。」
「優しくしてないよ。あげたものは、全部ゴミって言ったよね。女の子に声をかけるのは、そういうキャラ作りなんだよ。」
「でもIDで困ったとき、助けてくれたじゃないですか。」
「みんな助けるよ、あの状況なら、仲間なんだから。」
「わかんないんです。自分の気持ちが、現実とこことでぐちゃぐちゃになっちゃって、重なってて、似てて、同じようでで違うようで、もう。」
「ごめん、でも、アヤちゃんは、僕のリアルのことなんか全然知らないでしょ。引っ込み思案で、いつも、なんか負担掛けてるなと感じていて。そんな中で勇気出して伝えたい人が見つかったけど、伝え方が良くわからなくて。」素の自分になっていた。
「バッドさん、私こそ、ごめんなさい。真剣な相談だったのに、適当に答えて。」
この日は、会話がないまま、僕は、この場で落ちた。
花束作戦
金曜日、アヤちゃんが発案した花束作戦決行のため会社を早退した。奮発して大きめの花束を用意した。赤いバラメインの花束だ。
坂本さんには黙ってきた。花束を抱えて、坂本さんの会社の出口で、坂本さんが出てくるのを待った。退勤時間になって、帰る社員がぞろぞろ出てきた。坂本さんでなく、まず、長谷川に見つかった。
「お前何やってんだよ。こんなところで、そんなものもって。」
「坂本さんを出待ちしているんだよ。」
「よくわからないけど、迷惑じゃないか。」
「そうかな、アヤちゃんのアイデアでいいと思ったんだけど」
「アヤちゃんのアイデア???お前たち何やってんの?とりあえず、あそこのコーヒーショップでまってろ。坂本さんと連絡とるから」
コーヒーショップで待つこと15分。死刑宣告を受ける気分で、ものすごく時間が長く感じられた。そんな気分で、ずっと、坂本さんの会社の方を見ていた。会社の方から坂本さんが走ってきた。
「月島さん。どうしたんですか。突然。よくわかんないんですが、長谷川さんからものすごく怒られました。もてあそぶのはやめろと。そんなつもりはないんですが、傷つけたのならごめんなさい。」
「僕が勝手にやってることなので気にしないでください。これ受け取ってください。」
花束を差し出す。周囲の目も気になり、坂本さんは、戸惑いつつ受け取った。
「どうしたんですか突然。」
「僕の気持ちです。」というのがやっとだった。そんな僕に坂本さんは、
「ごめんなさい。本当に。自分の気持ち整理できていないんです。ちゃんとしなきゃダメですね。」としか言わなかった。
結局、死刑台に立たされたまま、僕は、そこに取り残された。
相談
坂本さんに振られたような振られていないような状況がかえって僕の心を坂本さんに縛り付けた。
最近、ゲーム内でも女の子と遊んでいない。習慣でゲームに入るがチャラ男ができないのでFCハウスにこもっている。そんな僕を心配してくれるのは、アヤちゃんだけだった。他の娘は、誰一人連絡もくれなった。アヤちゃんに相談してみよう。
「実は、好きな人に振られちゃったんだよ。多分、きっと」
「好きな人いるんですか?ちょっとショックです。でも振られちゃったんですよね。」
そんな言い方ないだろうと思いつつ。
「プレゼント攻撃にあっているみたいなんだよ。最初は嫌いと言っていたのに、手作りのアクセサリーとかもらって、揺らいだみたいなんだよね。」
「お金持ちなんですね、ライバルさんは。じゃあ、しょうがないんじゃないですか。」
アヤちゃんは、すごくつれない。
「なんか逆転する手ないかな。(深刻)」
「無駄かもしれませんがプレゼント作戦したらどうですか。(適当)」
「何がいいかな。(深刻)」
「花束ですかね、でっかいやつ。サプライズで渡すとか。(適当)」
ギャップ萌え
昼食後、二人無言のまま帰った。早い時間に帰宅したが、食事をとることもできず、まして、チャラ男なんてできるわけなかった。だから、この日は、ゲームにもインしなかった。
次の日、日曜日でも朝早く目が覚めた。起きあがる気力もなかったが、いつもの習慣でゲームに入ってしまった。
FCハウスの庭にいた。目の前に、アヤちゃんがみえた。
「おはようございます。」と言われたので「おはよう」とだけかえした。いつもの誉め言葉は出てこない。
「今日は、元気ないですね、どうしたんですか?」と聞かれた。
「いつも元気いっぱいだったら、ただのバカでしょう。」と投げやりに応じた。
「らしくないですね・・・。聞いてください。装備更新してから調子いいんです。サクサク進んでます。」
「そろそろ次の装備更新が必要じゃない。また作ろうか。」
「大丈夫です。いつまでも先輩たちに頼れないので。クラフター始めたんです。自作できるようになりたいなと思って。バッドさんが目標です。」
「目標にするなら、マスターの方がいいよ。僕なんかより。しっかりしてるから。」
「そうなんですよ。役割で人変わるんですね、実際の彼はもっと軽い人だと思うんだけど」
「アヤちゃんは、マスターのリアルのこと知ってるんだ。」
「ちょっとだけです。バッドさんはチャラいんだけど、違う面もあるギャップが萌えるんですよね。」
何だよそれ。と思いつつ、この日は、何もできそうになかったので、その場で倒れた(死んだふりエモート)。
ライバル
電車に揺られ海に向かう。二人並んで席についた。窓からの日差しがまぶしかった。
海沿いの公園を散策し、海が見える高台の公園についた。そこにあるベンチに座った。
坂本さんは、荷物からポットとサンドイッチを出した。彼女は、カップにコーヒーを注いで、僕に手渡した。その後サンドイッチを差し出した。サンドイッチは彼女の手作りだった。
「手作りなんてすごいですね」と僕は本当に感動していった。
「おいしいかわかりませんが、手作りっていいですよね。」
一口食べて「おいしいですよ。本当に」本当においしいと思った。
優しい風が吹いていた。海を眺めながらサンドイッチをほおばる。
坂本さんが話し出した。
「プレゼントの話したじゃないですか。彼からさらに帽子と服と靴とアクセサリー一式をもらっちゃったんです。しかも全部手作りなんですよ。全部、彼の名前が入っているんです。」
それを聞いて、僕は、ものすごく驚き、焦った。
「受け取ったんですか。」
全部、手づくりで自分のブランド銘も入っている。ものすごく多才でお金もちというイメージが出来上がった。
「チャラ男は嫌いと言っていたじゃないですか。」と抗議する。
「チャラチャラしてるだけじゃなかったんですよ。結構、しっかりしてるというか。」
僕は、いたたまれなくなったが、何も言えなかった。
坂本さんは「でも、正直よくわからないんです。現実的じゃないというか。」
そりゃ、そこまでできる人は、現実離れしていると感じるのは当然だ。僕には現実感があるというそこしか突破口がなかった。
「坂本さん、僕と付き合ってください。」ストレートに告白してしまった。
彼女は、本当に困った顔をして、
「自分の気持ちを確かめに来ました。今日。ごめんなさい。試すようなことして。」
と言ったきり黙ってしまった。
練習
坂本さんとの初デート予定でドキドキの中、チャラ男のロールプレイをする気持ちにもなれず、FCハウスに向かった。
アヤちゃんが木人に向かっていた。ヒーラーなのに攻撃の練習?と思ったので「何しているの?」と聞いた。
「攻撃の合間にヒールする練習です。ただ、ヒール対象がいないので、うまくいかないんですよ。」
そういうことか。
「アヤちゃん、もうチョコボもらった?」
「はい、もらったばかりですが、マイチョコボいます。」
「じゃあ、ここじゃなくて、フィールドの木人に行こう。」
二人でフィールドの木人の場所に向かった。
「バディだせる。メニューから呼び出せるんだけど。」
「キザールの野菜を持っていません。」
「あげるよ。呼び出すのに必要なのでたくさん持っておいた方がいいよ。」
キザールの野菜を分けてあげた。
「ありがとうございます。」アヤちゃんがチョコボを呼び出す。
「木人に攻撃してみて」と僕が促すと
アヤちゃんが木人に石を投げ始めた。するとチョコボも同じ木人を攻撃しだす。
「バディをターゲットして、ヒールしてみて。」と僕がアドバイスする。
「ああ、攻撃とヒールが両方できますね。」と感心していた。
「イメージトレーニングにしかならないけど、一人で練習できるよ。」
「ありがとうございます。バッドさんって親切なんですね。」
チャラ男をする気にもなれなかったので、素で回答してしまった。
「チョコボ訓練するとフィールドでソロで戦うときに、助けになるので便利だよ。育てればヒールもしてくれるようになるから。」
一通りアドバイスが終わったので、僕だけ帰ろうとする。
アヤちゃんが「SS、一緒にとって下さい。」と言ってきた。
「最近、グルポも勉強しているんで、エモートとかもいろいろ習得しましたよ。」
何枚か、SSと一緒にとって、解散した。そのSSは、その日のアヤちゃんの日記に載っていた。「FCの先輩に練習付き合ってもらいました。」とあった。一応、いいねをつけておいた。