時計の針

今日、私の時計をまた動かそうと思う。今日のこの時間は今日しかない。それがどういうことか私には、まだはっきりとはわからないけど、もう彼も含めて自分を許してあげようと思う。もう悲しまなくていいよって。私に。
いつものようにログインした。その後、彼と作ったKnights and Primrose のCWLSを解散した。その場所が無くても私はここにいるし、ここにいたい。エオルゼアの風景はいつのもまま、変わらず私を迎えてくれた。
青魔道士やるか、それかDDやろうかと思った。私が楽しむために。そうだ、やることがあった。私は、ミラージュ・ドレッサーの前に立った。それから、彼を呼び出した。私から呼び出すのは、初めてだ。直ぐ彼は来てくれた。
「こんにちは、着てくれたんだ。プレゼントした服。」驚いたふりがわざとらしい。
私もそれに対してわざとらしく応じた。「おしゃれ装備なんて、初めて。どう似合う。」
「いいんじゃないかな。おしゃれについては、よくわかんないけど。」
「・・・だと思った。着ている服からセンスないなと思ってたww。」
「そんなことないと思うけど・・・・w」
こんな会話、いつぶりだろう。そして、私から、やりたいことをお願いした。
「青魔のラーニング手伝って。」
「了解。」
私の時計の針が、また、動きだした。今日も3人の騎士とともに私の物語は続く。

おしまい

明日の自分

また明日と言ったけど、今の私に明日、ログインする勇気はない。私には現状を変える力もないし、方法も知らない。ずっと、いつもの通り過ごしてやり過ごしていた。目をつむり、じっとしていれば、自然と明日は、毎日来ていた。私には黙っていても明日が来る。それは当たり前のこと。そう思っていた。

彼がいなくなって私は悲しい。もし彼がいて、私が突然いなくなったらやっぱり彼は悲しむだろう。悲しませちゃだめだよね。彼がずっと悲しみ続けるなんて嫌だよ。悲しんだままで彼の明日が来なくなる日が来るのなら、いっそ私のことなんて忘れてほしいよ。きっと彼だって、ずっと私が悲しんだままがうれしいはずがない。私、何を怖がっているのかな。今、私がしたいことをするのに何かためらう必要があるの。今、笑っちゃダメなの。今、楽しんじゃだめなの。今、喜んじゃダメなの。私は、何度も何度も自分自身に問いかけた。

私は、彼を待つ間、ずっと悲しんでいれば、彼を忘れないと、そう信じてるだけだよ。私が変わらなければ、彼も変わらないと思っているだけだよ。でも止められないよ。時間は。もう十分悲しんだよね、私。だからね、もう、許してあげる・・・・。

それから、新しいIDに挑むときのように、明日、ログインする自分の姿を想像してみた。いつもの自分の姿しか浮かんでこなくて、笑いが込み上げてきた。滑稽すぎて、私の顔は、笑いとともに涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった。いつもの私のまんまじゃん。ここから出るのに特別ななんかなんて必要なかったんだ・・・・。

結論

ログインすると久しぶりに彼からTellが入った。「おしゃれ装備ができたから、渡すよ。」
私の中で結論は出ていた。結論は、会うだけあって話そうと。
彼は、会うなり、おしゃれ装備をトレードしてきた。私には必要のないものだったが、受け取る、受け取らないの話は、したくなかったので、素直に受け取った
「もう構わないでほしい。一緒にいた彼が突然いなくなった。今でもずっと待っている。私は、一人で待つと決めました。」と、もう私にかかわらないでほしいと伝えた。それに対して彼は、
「僕にも、彼女が突然いなくなったことがある。それから、ずっと一人で彼女を待っていた。でも気が付いた。今日が大事なんだって。気が付かせてくれた友達がいたんだ。君を見た時、なんか似ているなと思った。」と言ってきた。
彼女がいなくなって、私が彼女に似ている。私は、そう解釈した。私は代わりじゃない。
「私は、あなたの彼女の代わりにはなれないよ。」
「違うよ。似ているのは、あの時の僕にだよ。ずっと時間が止まったままの感じで、あの時の僕に似ているなと思い心配になった。」
続けて「僕は、ある日、彼女の顔がぼんやりとしか思い出せなくなっていることに気が付いた。SSを見れば、彼女との思い出がよみがえってくる。確かに彼女は僕の隣に居たんだ。時間は止められない。時間が記憶を消していく。残酷だと思った。そこにとどまることも許してもらえない。でも友達は違った。そんな僕に、言ったんだ。“いつまでここに居られるか分からない。だから今日を楽しむんだ。悲しみ続ける必要はない。”って。」
「だったら、その友達と遊べばいい。私とでなく。」
「友達はもういない。彼は、病気だった。病状が進行して、ここを離れる日が来た。友達は、それを受け入れざるえなかった。だから、今を大事にしていた。僕にそのことを気づかせてくれた。僕は、その友達には毎日、また明日とあいさつした。今を大事にしていれば、別れの痛みも時間が消してくれると思ってる。君だって、君の明日が来なくなるその日まで悲しみ続ける必要なんてないんだよ。どういう形かわからないけど、必ず悲しみにも終わりはくる。その時を君の終わりの時と一緒にしてほしくない。自分の明日が来なくなる日がいつかなんて誰にもわからないんだから。もう・・・・・・」
頭の中がぐるぐる回って、もう、彼の言葉が理解できない。私は、懸命に居なくなった彼を思い出そうとした。居なくなった彼の顔がはっきりと思い出せない。でも、彼が、私の現状を見てどう思うだろう。立ち止まっていることを喜ぶだろうか。彼だったら、きっと、喜ばないと思う。
私は、「ごめんなさい。また明日。」とだけ言って、ログオフした。

Knights

僕は、今日も彼女を待っている。あの日、彼女は、約束の時間を過ぎても来なかった。約束を違えたことなんて一度もなかったのに。その日から僕は、時間を止めた。彼女が戻ってきてもそこから一緒に進められるように。クエストも受注しない。レベリングもやめた。ただ、インしてぼーっと何もしない日が続いた。そんな様子をみて、一人の友達が、「どうしたの、最近元気ないですね。」と話しかけてきた。「彼女がログインしなくて、連絡が取れないんですよ。」と理由を話した。
「それは心配ですね。」
友達は、僕のことを、気にかけてくれていた。何回かそんなやり取りの後、「今日、イベント最終日です。一緒に行きませんか。」と言ってきた。彼女と行く約束をしていたイベントだった。「彼女と一緒に行く約束をしているので行けません。」と返した。
「そうですか。でもこのイベントは、今日までです。」と友達はイベントに向かった。しばらくして友達は、戻ってきて僕にイベントの関連アイテムをいくつかくれた。
定期的に友達は、声をかけてくれた。正直、断るのもうざくなっていたので、とうとう、ぶちまけてしまった。「ほっといてください。僕は一人で彼女を待ちたいんです。それに、どうせ、あなただって、すぐに、僕の前からいなくなるのでしょう。もう、一人にしておいてください。」
「そうですね。明日の保証なんて、誰にもできません。明日、僕は、ログインできないかもしれない。僕には、病気があるので、いつまでこのゲームを続けられるかわからないんです。」
友達の病気のことは知らなかった。「ごめんなさい。そんなつもりでは。」
友達は怒るでもなく、淡々と続けた。
「だから、一緒に楽しみたいんです。今日のこの時間は、今日の今しかないんです。悲しむのはいいんです。でも悲しみ続ける必要なんてないですよ。すみません。一人で立ち止まっている人を見るとほっとけないんです。」
それだけ言って、友達は、去っていった。
その時、僕には、友達の言っている意味が解らなかった。過去、今、明日は、誰にでもあるものだと思っていた。過去にとどまっていられると僕は、本当に思っていた。結局、僕は、過去のではなく、今のこの場所に立っているということに気が付いていなかっただけだった。誰も過去にはとどまれない。今の僕を見て彼女は、どう思うだろうと、考えた。その時、彼女の顔がちゃんと思い出せないことに気が付いた。動揺した。でも、僕が知る彼女は、たぶん、今の僕を見て、悲しむか怒ると思う。
次の日、友達に会った。特に目的はなかった。お礼を言うのも違うかなと思って、ただ、一緒にコンテンツを回り、別れ際に、「また明日」と言った。友達との別れの挨拶は、「また明日」になった。

居場所

私がやっていないコンテンツはたくさんあった。一人でできるものを探した。
とにかく一人でいたかった。一人でいないと彼を忘れてしまいそうで。とりあえず怖かった。その理由を深く考えたくもなかった。取り合えず、考えずに逃げたかった。
作業として一人でできるものを探す。青魔道士とかDDとかソロでやってみようかな。
今日も彼から連絡が来たが「ソロで青魔道士のラーニングを始めたので今日は一緒に行けない。」と答えた。
私は、この世界が好きだ。彼がいなくなった後も、彼を信じて居場所を残しているのもそのためだ。彼が戻ってくることを諦めたら居場所を維持する意味もない。諦めたら、ここがなくなったら、その時、私も一緒に消えちゃうのかな。当分、このコンテンツでその結論を出すことを先延ばしにできるかなと思った。私は、しばらく一人で過ごすと決めた。

おしゃれ

次の日、彼は、イベントでもらったおしゃれ装備を着てきた。
「あれ、着てこなかったんですか」と言われた。
ミラプリをしたのは、いつが最後だろう。私は、現在最強の装備をそのまま着ている。そこに疑問は持たなかった。
「じゃあ、おしゃれしましょう。」と言われた。
おしゃれ? 考えたこともない。
「いいです。このままで。」と返した。
「よくないですよ。じゃあ、ちょっと時間ください。作ってきます。」
なんて答えてよいのかわからなかった。新式は、何回も作ったことはあるが、おしゃれ装備なんて作ったことはない。まして、もらったこともない。
「今日何しますか。」と言われた。
そうだ、もうルレも回る必要ないんだと思ったが何をしてよいのかわからなかった。
それを察したのか、彼は、「じゃあ、今日もルレ行きましょう。」
と一緒に回った。
ルレ後、「僕は、おしゃれ装備の製作にかかるので、今日はここまでです。」
と言って別れた。時間を持て余す。

イベント

ログインすると、いつものように彼からTellが来た。
彼はいつものように「今日の分、ください。」と要求してきた。
しかし、もう食事も薬も昨日作った分しか残っていなかった。まとまった数がないので私は、「もう在庫がありません。」と答えた。
「よかった。じゃあ、ルレ行きましょう。」
いつものようにルレをすべて回った。その後、彼から
「相当ギル貯まったんじゃないですか。もう素材集め必要ないですよ。」
と言われた。
わたしは、貯金額をきちんと確認していなかった。それでもこれまでの受取額は、相当な金額だった。
「そうですね。同じ量の食事と薬が買えるということですものね。」
そこで彼から提案があった。
「ちょっと休みませんか。イベントで飾り付けやってるじゃないですか。見に行きましょう。」
やることも思いつかず、黙ってついていった。
休み方なんてわからなかった。走り続けることで考えないようにしていた。いなくなった彼を信じたかった。何かあったなんて思いたくなかった。
私は、ぽつりと「イベントなんて、参加したことないんです。報酬にも興味ないし。」と、つぶやいた。
「もったいないよ。せっかくだから一緒にクエスト回ろうよ。」
言われるがままに一緒に回った。クリア報酬におしゃれな装備をもらった。
彼は「一緒に回ってくれてありがとう」と言って、その日は、別れた。
一人で何しようかと考えた。何も思いつかなかった。

販売

今日も彼は来るんだろうか、そう思いつつ、ログインした。
また、私を待っていたかのように、Tellがきた。
「こんにちは、昨日の食事代をお支払いします。さらに今日の分の食事と薬もお願いします。」
昨日と同じように「どうぞ」とトレードした。
彼は、「マケボ価格です。」と多額のギルを振り込んできた。
私は黙って受け取った。
「ではルレ行きましょう。」
一緒にルレを回った。その後、大量の食事と薬をどうしているのかと疑問に思った。
「薬と食事どうしているんですか?」
彼はしれっと
「自分で使う分もあるけどほとんど売っています。ちゃんと全部、マケボ価格でお支払いしてますよ。」と答えた。
私ができないことをやってくれている。自分では、マケボに出せない。ゴミになることがわかっていても。
私は、それでも、素材集めと食事と薬の製作を止めることができなかった。でも、彼の消費の方が多く、在庫は、どんどん減っていった。

在庫

食事と薬の在庫を調べた。各ジョブ用の食事と薬が各数百個以上積みあがっている。今売れば、高く売れる。億万長者も夢じゃない。数か月後には、型落ちになって、投げ売り状態になる。それがわかっているのに、売らずに、在庫を毎日積み上げている。私、何しているんだろう。結局、前回もすべて型落ちして投げ売りした。素材は、集めているので、赤字じゃないが、ギルはほとんど増えていない。
ふと「今の在庫もゴミになっちゃうのかな。」
そんな不安を振り払うように、“彼が戻ってきたときに困らないようにしなきゃ。”と思い込むようにした。
ここ最近の出来事で、素材、トークンの目標計画が大きく崩れていた。今日は、立て直そうと思いログインした。
ログインして、彼の顔を思い出そうとしても、やっぱり、浮かぶのは、昨日の彼の顔だった。もう思い出せないのだろうか。
そう考えていると私を待っていたかのようにTellが入る。昨日の彼からだ。
「こんにちは、今日も一緒に回りませんか。」
「すみません。私忙しいんです。」
「なにするんですか。」
「ルレ、全部回します。」
「なら、一緒ですね」
同じ、会話を繰り返した。
ルレを回り終わると、また、彼から聞かれた。
「レイド行くんですか。」
「いいえ、私は行きません。CWLSでチーム運営しています。」
と答えた。
「すごいですね、本格的に運営しているんですね。」
「いいえ、今チームは、休止中です。いつ再開してもいいように準備しています。」
「何人足りないんですか。」
「一人もいません。」
問いに答えるたびに、悲しくなってきた。少し間をおいて
「じゃあ、僕を入れてください。」
と言ってきた。
「目的は何ですか。休止中と言ったじゃないですか。」
からかわれているのかと思って、いらっときて、きつい口調で返した。
「目的ですか。在庫を消化しようと思います。」
彼は、積みあがっている、食事と薬を指しているのだと思った。
「必要ならいくらでもあげます。何が何個欲しいか言ってください。」
「じゃあ、遠慮なく、近接のご飯と薬を99個ずつください。」
「どうぞ」とトレードした。
「今、手持ちのギルが無いので、後日支払います。」
「要りません。」
急にむなしくなって、この日もそのままログオフした。

ルレ

今日も、この世界の一日が始まる。まずルレを回そうと思ったところ、例の彼からTellが入った。
「こんにちは、今日も一緒にルレ行きませんか。」
「すみません。私忙しいんです。」
「なにするんですか。」
「ルレ、全部回します。」
「なら、一緒ですね」
とパーティ申請が来た。ルレ回るなら、反論も面倒なので、パーティを組んだ。彼と全ルーレットを回った。
ルレ終了後、「トークンたくさん貯まりましたね。」と言われた。
良く考えると人と話すのは、いつぶりだろう。
「私忙しいので、パーティを解散してもらっていいですか。」
「次は何するんですか?」
「素材集めと、食事と薬を作ります。」
「レイド行くんですか?」
「いいえ私は、行きません。」
「販売ですか。」
「・・・・」
回答できない。
「すみません、今日は疲れたので、休みます。」
といって、パーティから抜けて、すぐログオフした。