過去

「カコさんは、女性キャラ。相手の女性も女性キャラ。仲がいいといっても、関係は曖昧でした。カコさんが女性キャラだったからでしょう。私は、二人のリアル側も知ってます。リアル側の彼は、あまり自信を持っていないタイプです。リアルでどうしていいかわからな様でした。リアルの彼女は、清楚な感じのかわいらしい女性でしたから、周囲がほっとくわけもなく、男性から話しかけられることはあったようです。私もそれほど経験豊富というわけではないので、彼にろくなアドバイスもできませんでした。」
そんなことがあったんだ。
「こっちでは、カコさんと彼女二人で過ごすことが多かったので、多分、彼女は、待ってたんだと思います。でも、リアルの彼は、動けなかった。そうこうするうちに、彼女に彼氏ができて、ゲームにも入らなくなりました。」
「そんなことがあったんですね。」
山田君があの時、怒ったのはこの時の傷に触れたからなのかな。“私”は、デリカシーのかけらもない人間だ、落ち込む。
「ベンタさんが、カコさんとの関係をどう思っているかはわかりませんが、真剣に考えていないなら、はっきりそれを伝えてほしいです。あいまいにしたまま振り回すのだけはやめてほしいと思ってます。」
「マスター、ご心配ありがとうございます。僕は、真剣に考えてます。リアルでちゃんと彼に言ってもらってますから、だから私ちゃんと考えてます。」
あっちとこっちがこんがらがった回答になってしまった。

マスター

カコちゃんと別れた後。CWLSのマスターから僕に話があると連絡がはいった。マスターは、カコちゃんのフレンドでCWLSの責任者だ。何度か、パーティ募集に入ってもらったことあるので、初めての接触ではない。
「最近、カコさんと仲が良さそうですね。」とマスターさんが切り出す。
「はい、もともとフレンドなんですが、なんかとてもよくしてもらってます。」と、よくわからない回答になってしましった。この段階では、怒られるのかなと思っている。
「カコさんは、このCWLSを一緒に作った間柄で、古い付き合いです。リアルでも友達で、このゲームを始めたきっかけが彼です。」
リアル友達なので当然、カコちゃんの中身の性別は知っていた。
「今のカコさんを見ていると心配で、ベンタさんにお話聞こうと思いました。」
カコさんが心配?僕何したの?
「実は、カコさんに誘われて私と一緒に始めた人がもう一人います。女性です。キャラも女性でした。カコさんは、この世界で、その女性と仲良かったんです。今のベンタさんみたいに。」
初耳だよ。そんなこと。

イライラ

カコちゃんは、ぐいぐい引っ張っていくタイプなので僕はすっかりペースに飲まれていた。はたから見たら僕たちは相方関係にしか見られないだろう。
でも僕は、この世界の初心者なのでどう対応していいのかわからなかった。あれ、なんか、どこかで聞いたような状況だ。
女性に戻って考えた。私は、山田君のことをきちんと正しく評価していたんだろうか。自分は、恋愛強者だと思ってたけど、結局、私をちゃんと評価してくれない男しか見つけられてない。無性に自分に対してイライラしてきた。そして山田君のことがもっと知りたくなった。

隣にいるカコちゃんに聞いてしまった。
「明日、山田君に会えるかな。」
問い合わせているのかちょっと間があいて
「明日、食堂で待ってるって。」と答えてくれた。

価値

カコちゃんから何時ものように連絡が来る。そうだ、カコちゃんに相談しよう。
「カコちゃん、・・・・」あれ、なんて相談すればいい。僕は男性、元カレは、男性?女性?
「なに、ベンタ君。」
「いや、今日・・・」と僕は話を切り出せない。
「わかった。山田に変わるね」
といって、カコちゃんは、山田君になった。
「今日の食堂の件ですか。こっちに来ると思ったらどっか行っちゃうから。」
「だって、女性と話してたでしょ。」
「なんかあれ以来、女性から話かけられるんですよ。迷惑なんですけどね。」
「そうなんだ。元カレの件で相談したかったんだけど、いいかな。」男女どちらかわからないキャラになっていた。
「そんなのもう忘れてください。どうせまた連絡来たんですよね。」
「わかるんだ。なんか軽薄なチャットが来て、冷めちゃった。」
「それが、元カレがつけている君の価値ですよ。」
何も言えなかった。わたしは、その指摘にすごくショックを受けた。
「ごめん、相談する内容じゃ、なかったね。」
「僕は、元カレのこと忘れてほしいと思ってます。それだけ。違和感あるので戻るね。」
と、山田君からカコちゃんに戻った。
「ベンタ君、ごめんね。違和感あって、長く続けられない。今日は何するの。」
といつものカコちゃんになっていた。僕もいつものベンタに戻っていた。

図形

同じ人間に、オンラインとオフラインでしかも性別逆で告白されたということなのか。四角関係?三角関係が二つで六角関係か。ルカ君は解決済みか。五角関係かな。そんなのはどうでもいい。山田君とカコちゃんは同じ人間とは思えないほど、対応が違った。男女差なのかな。山田君は、あれ以来、接触がない。社内で私が一人になることはないからかもしれないけど。カコちゃんからは、毎日連絡が来る。かいがいしいほど世話を焼いてくる。昨日は、装備更新できていないアクセをもらった。カコちゃん制作のHQ品だ。元カレのことは、どこかへぶっ飛んでいた。そしたら、元カレからまたSNSに連絡が入ってきた。
「返事くれないけど、拗ねてるの。連絡待ってるから」
こいつバカじゃないかとしか思わなくなっていた。あんなに好きだったのに。山田君に相談だ。と次の日食堂で山田君を探す。いた。一人…じゃない。女性がいる。なぜ、こんな時。
だめだ、相談できない。

積極性

ゲームに入るとすぐにカコちゃんから連絡が入った。
「今日なにするの?今どこにいる?」
ストーカー?何この積極性。
「今日はストーリー進めます。ID解放まで進んでないので、戦闘の予定はありません。」完全に敬語で対応した。
「ちょっと待って、そっち行くから」と僕のところまできた。
出会うなり、なんか僕を調べてるっぽい。
「これ食べて。経験値の足しになるからね。」と戦闘食を差し出す。
「ありがとう。・・・ございます。」と受け取った。
「じゃ、頑張ってね。」と去っていった。
ベンタに沸き起こった気持ち、この感覚が男性の気持ちなのか。ストーリーを進めるが、話が頭に入ってこない。

立候補

もう一度山田君に相談しよう。昼休み、山田君が一人なのを確認して、前に座った。

「なんですか。」目も合わせずにぶっきらぼうにきいてきた。
「ルカ君にはなんか応援されたよ。」
「あっちの話ならカコにお願いします。」ものすごく冷たい。
「いや、男性の気持ちだから、山田君に聞こうかなと思って。ルカ君に許してもらったんだけど、カコちゃんを傷つけたら許さないって言われたよ。」
「僕にもわかりませんよ。一人の女性を争ったことないです。そっと諦めることならありますよ。というか諦めたことしかないです。」
「なんで諦めるの。」
「自信がないんですよ。自分に。自分なんかという感じですかね。あと、どうしていいかわかんないし。」
童顔でかわいい顔してるのに。それを活かせばいいんじゃないと思うけど。
「でも、カコちゃんは。だいぶ違うと思うけど」
「カコは、あっちの世界では、何というか、自信が持てるというか。うまく立ち回れるというか。」
「そうなんだ、同じ人間なのにね。不思議だね。」
「そういう分析要らないですから。多分、僕には、そこまでの対象の出会いがなかっただけですよ。元カレとはどうなったんですか。」
「どうにもなってないよ。放置してる。」
「じゃ、僕が立候補しますよ。放置してるならいいでしょ。」
「なになに、どういうこと。」
「恋愛相談してたら恋愛に発展するってよくある話でしょ。」
「・・・。本当に山田君だよね。」
「僕には、そこまでの対象の出会いがなかっただけって言ったじゃないですか。今、出会いました。」
「ごめん、ちょっと整理するから。」
と言ってその場から逃げた。

友情

独りになって考える。山田君は本当に彼女いない歴イコール年齢なのか。カコちゃんは、積極的で強い意志を感じる女性だった。
あー、ルカ君にも説明に行かなきゃ。なんでこうなった。って自分の所為か。もう、元カレのことは、頭の隅の方に追いやられていた。とりあえずほっておこう。
まずは、ルカ君だ。ルカ君と連絡を取る。

「ルカ君、あのね、カコちゃんから告白された。」
「何それ、それで、返事したの。」
「まだ、だって、ルカ君の気持ちもあるし、僕も友達以上には考えていなかったから。」
「僕への憐れみ?ベンタ君の気持ちをまず整理したら、僕はどうでもいいでしょ。」
「ルカ君の思いは友達として聞いてたから。裏切る形になっちゃうから。」
「カコさんの気持ちとベンタ君の気持ちが重要だよ。僕は、何も始まってないから。傷つくことないよ。そりゃ嫉妬はあるよ。あるけどベンタ君との友情もあるから。」
男ってそうなの?友情が優先。
「わかったよ。ちゃんと考えて対応するよ。」
「でも、カコさんを裏切ったり、傷つけたら、僕は許さないから。」とルカ君からくぎを刺された。これ絶対、ふれないパターンじゃん。ふったら殺されるルカ君に。

感情

ゲームにインすると、いきなり、カコちゃんから一緒にルレ行こうと誘いが入った。募集を出すと、ルカ君も参加した。ルレが終わっても、パーティに3人だけが残ってた。

奇妙な3人組ができてしまった。カコちゃんがいきなり爆弾を投下する。
「ルカ君、私ちょっとベンタ君とお話あるんだ。」
「そうですか、では、お疲れ様でした。」とルカ君は、パーティから抜けていった。
僕は、後でルカ君に殺されると絶望した。
「ベンタ君。私は本気だから。あの話。」
「カコちゃん。無理だよ。ふるなんてできない。」
「なら、ふらなきゃいいよ。」
「ごめん、本当に混乱してる。良くしてもらって感謝してるけど、恋愛感情じゃない。先輩としてだよ。」
「友達から始めればいいよ。何でもそういうもんでしょ。はじめは。」
「わかったよ。でもちょっと考えさせて。」
それが私が言える精いっぱいだった。

男の心

「実は、3か月前、その時付き合っていた彼にふられた。突然。つい先日、その彼からSNS に連絡が来たんだよ。まだ返事してない。どうしたもんかな。と思って。相談。」
「好きにすればいいじゃないですか。」と身もふたもない回答が来た。
「いや、今さら自分がふった女に連絡してくる男の気持ちがわかんないから聞いてるんだよ。ルカ君にも相談したよ。」
「僕もわかんないですよ。ベンタ君の男の心が知りたいという気持ちは、理解しました。」
「まだベンタでもわかんないだよ。だから、カコちゃんじゃなく、山田君に聞いてる。」
「僕はそんなことしたことないんで、わかんないです。一度壊れたもは、戻らないでしょ。普通は。ルカ君は、何と言ってました。」
「ルカ君は、私の価値に気が付いたか、寂しいか、新しい彼女に振られたかのどれかだって。」
「僕もそう思います。」
「やっぱりそうなん。寂しいか、新しい彼女にふられたのなら、復縁なんて考えられないよ。私の価値に気が付いたのならちょっと考えようかな。でもそこが確かめる方法がわからない。」
「じゃ、ほっとけばいいじゃないですか。価値に気が付いたのなら、また連絡して来ますよ。寂しいだけなら、他に行くでしょ。」
確かに。
「そうだね、でも、この件でなんにもしないと落ち着かないよ。」
「なら、女をふった気持ちを知ればいいんじゃないですか。カコがあの話受けてあげますよ。付き合う話。」
「だめだよ。そんなの、カコちゃんをふるなんてできないよ。あんだけ世話になってるのに。」
「いいよ、出来レースみたいなものなんだから」
「まだ問題あるんだよ。ルカ君、カコちゃんのこと誤解してる。いやしてないか?」
「どういうこと」
「カコちゃん。中身の性別明かしてないでしょ。ルカ君は、大人な女性としてあこがれてる。ベンタがカコちゃんと付き合ったら、多分殺されると思う。」
「カコの中身を隠してるわけじゃないけど、はっきり言ったことないね。言う機会もないし。でもどうせ別れるんだから良いじゃない。」
結論が出ないまま、昼休みが終わった。