「このキャラクターは削除されました」という無機質なメッセ―ジだけが彼女の痕跡となってしまった。
FCには、新しいメンバが数人入ってきた。若葉も混じっている。
新人ちゃんは、先輩ちゃんになっていた。相変わらずのなりきっていない姫ちゃん語だったが、若葉メンバを引っ張って、ダンジョンに突入していた。
新人ちゃんは演じているのだろうか。マスターは、演じることから解放されたのだろうか。
そんな時、新人ちゃん改め先輩ちゃんとFCハウスでばったり会った。
聞きたかったことがあった。先輩ちゃんに「その話し方時は、わざとやっているのですか」と尋ねた。
「これが自分。これが飾らない自分のしゃべり方だよ。」と返ってきた。
はっとした。そんな気持ちを整理する間もなく。「ちょっと時間ある。話したいことあるんだ。」と言われた。
「時間ありますよ。」と返した。「じゃ、外行こう。お気に入りの場所に。付いてこい。」と言われた。
ついたのは、クルザス西部高地のあのクエストの陸灯台の上だった。
今日は、珍しく快晴だった。一面の荒涼とした雪と氷の世界が広がっている。
「私、マスターと付き合ってるんだ」と話し始めた。
知ってるよと思ったが、「そうなんだ」と返した。
「ここ、マスターに教えてもらった場所。マスターが悩んだ時とか、一人で来るんだって。」
マスターもあのクエストを受けてここに来たのだろうか。ストーリーを進める上では、必須でないサブクエストを。
「この風景見て、思ったんよ。寂しいのかなって。色々話してみな。といったら、堰を切ったように話し出したんよ。」
「つらかったねとか、私みたいに、飾らなくていいよ。とか言ったんよ。そん時は。」
黙って聞いていた。なにか言い返す内容でもなかった。
日が暮れてきた、天気が良いまま夕日を迎えた。
「私が壊しちゃったのかな。FC。」と話が途切れた。
ちょっと考えて返した。
「いいや、みんな演じるのに疲れちゃったんだよ。きっと。演じてなかったのは、僕と君だけだったかもしれないね。」
でも僕の場合は、演じられなかったのか、演じることを知らなかったのか、演じきれてなかったのか、それさえはっきりわからなかった。
すっかり日が暮れて、オーロラが見えてきた。オーロラが出るなんて珍しい。幻想的な風景が二人を包んだ。
「14日は、マスターと二人でここにおったんよ。ずっと。怒っとる?」
関係のない二人が場違いな場所で二人だけという滑稽な状況に笑うしかないなと思った。
「怒ってないよ、怒る立場でもない。僕が僕の役割を演じず、勝手に行動しただけだよ。」
「寒いから戻ろうか」とパソコンの前の僕には、ありえない理由で会話を打ち切った。 先輩ちゃんも「寒いって?帰ろうか。」その場でわかれず、わざわざ、FCハウスまで戻ってから解散した。