Knights

僕は、今日も彼女を待っている。あの日、彼女は、約束の時間を過ぎても来なかった。約束を違えたことなんて一度もなかったのに。その日から僕は、時間を止めた。彼女が戻ってきてもそこから一緒に進められるように。クエストも受注しない。レベリングもやめた。ただ、インしてぼーっと何もしない日が続いた。そんな様子をみて、一人の友達が、「どうしたの、最近元気ないですね。」と話しかけてきた。「彼女がログインしなくて、連絡が取れないんですよ。」と理由を話した。
「それは心配ですね。」
友達は、僕のことを、気にかけてくれていた。何回かそんなやり取りの後、「今日、イベント最終日です。一緒に行きませんか。」と言ってきた。彼女と行く約束をしていたイベントだった。「彼女と一緒に行く約束をしているので行けません。」と返した。
「そうですか。でもこのイベントは、今日までです。」と友達はイベントに向かった。しばらくして友達は、戻ってきて僕にイベントの関連アイテムをいくつかくれた。
定期的に友達は、声をかけてくれた。正直、断るのもうざくなっていたので、とうとう、ぶちまけてしまった。「ほっといてください。僕は一人で彼女を待ちたいんです。それに、どうせ、あなただって、すぐに、僕の前からいなくなるのでしょう。もう、一人にしておいてください。」
「そうですね。明日の保証なんて、誰にもできません。明日、僕は、ログインできないかもしれない。僕には、病気があるので、いつまでこのゲームを続けられるかわからないんです。」
友達の病気のことは知らなかった。「ごめんなさい。そんなつもりでは。」
友達は怒るでもなく、淡々と続けた。
「だから、一緒に楽しみたいんです。今日のこの時間は、今日の今しかないんです。悲しむのはいいんです。でも悲しみ続ける必要なんてないですよ。すみません。一人で立ち止まっている人を見るとほっとけないんです。」
それだけ言って、友達は、去っていった。
その時、僕には、友達の言っている意味が解らなかった。過去、今、明日は、誰にでもあるものだと思っていた。過去にとどまっていられると僕は、本当に思っていた。結局、僕は、過去のではなく、今のこの場所に立っているということに気が付いていなかっただけだった。誰も過去にはとどまれない。今の僕を見て彼女は、どう思うだろうと、考えた。その時、彼女の顔がちゃんと思い出せないことに気が付いた。動揺した。でも、僕が知る彼女は、たぶん、今の僕を見て、悲しむか怒ると思う。
次の日、友達に会った。特に目的はなかった。お礼を言うのも違うかなと思って、ただ、一緒にコンテンツを回り、別れ際に、「また明日」と言った。友達との別れの挨拶は、「また明日」になった。

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