彼女は、無傷だった。少年も少し痩せていたが、怪我はなさそうだった。彼女はことの顛末を上司に報告した。素直に降伏して捕まったが、拘束されただけでなにもされておらず、箱に詰められたと報告した。目隠しされていたので、賊の様子は分からなかった。
少年は、同族の兄と暮らしており、兄の仕事を手伝っていたと話した。少年の素性がわからなかったので、半監禁された状態でイエロージャケットに留め置かれていた。
無傷で解放された理由がわからなかったが、彼女も報告を一通り終えると休みを与えられた。自室に戻りジャケットを脱ぐとき、ポケットに違和感があった。ポケットには腕輪と手紙が入っていた。
彼女は腕輪を見て驚き、自分の腕をみた。自分の腕輪はついている。自分と同じ腕輪がポケットから出てきたのだ。自分と同じ腕輪・・・。それは、生き別れた弟の物でしかなかった。探していた弟の物。
腕輪とともにあった手紙には、こうあった「少年は、海賊に誘拐されていた被害者なので保護してほしい。」とだけ書かれていた。
弟の腕輪とともにあったので、弟が書いた可能性も考えられた。彼女は、居てもたってもいられず、次の日、出勤するとすぐに少年を訪ねた。少年に、腕輪を見せて、何かわかるか聞いた。少年は、「兄ちゃんがいつもつけていた腕輪だよ。」といった。そして「兄ちゃんはどこ?」とも聞いた。少年の生活についても聞いた。
掃除、洗濯、炊事の手伝いを主にやっており、荷物を運ぶ仕事もあったとのことだった。犯罪に直接結びつくことは、確認できなかった。船が近くにあったようだが住んでいた場所は分からなかった。兄の仕事についても聞いたが、船乗りである以上のことは、よくわからなかった。少年は、犯罪者と認められないため十代前半が入れる施設へ、移動する決定がされた。手紙が弟だとしたらこの子は、自分が保護しなければと感じていた。しかし、仕事上、家を空けることが多く、一人だけで置いておく訳にはいかなかった。頼れるのは、食堂を営む青年しかいなかった。しかし彼の希望にこたえられないまま頼ことはしたくなかった。
最後は、他につてもなかったので、青年に相談することにした。ちょうど人でも足りないので、生活と仕事の世話をしてくれることになった。