数日後、レター・モーグリが1通の手紙を彼女に届けた。
彼女の弟からだった。亡くなる前に投函したものだろう。
「姉さんごめんなさい。つらい思いをさせて。僕の手は、悪に染まり、後戻りできないところまで来てしまいました。捕まれば、姉さんに迷惑がかかってしまう。せめて、姉さんの手で、始末をつけてもらえるのが救いです。それが、僕の最後の望みです。この手紙が届くころには、その願いがかなっているでしょう。
捕まったイエロージャケットを見て、すぐに姉さんだとわかりました。腕輪をみて確信しました。姉さんに会いたいという願いがかない、やっと終わりにする時が来たんだと思いました。この時、ぼんやりと最後の計画が浮かび、実行することにしました。しかし、弟のことだけが気がかりで、姉さんに託すことにしました。
最後のお願いです。一緒に開放した少年は、僕の弟です。姉さんと別れた後、監禁された場所で出会い、二人で生きてきました。僕の家族の今後をよろしくお願いします。姉さんには、ずっと苦労ばかり掛けて本当にごめんなさい。」
読み終えると手紙をそっと、テーブルに置いた。静かに音もなく涙がこぼれ落ちた。青年は、テーブルの上におかれた彼女の手に自分の手をそっと重ねた。彼女は、その手をぎゅっと握り返した。青年から差し出された手を握り返したのは初めてだったかもしれない。青年は反対の手で少年の手を取った。少年も反対の手で、彼女の手を取った。彼女は小さい声でごめんねと言った。青年は、返した。一言だけ、「家族じゃないか。」と。
「家族」という言葉が僕の心に響き、いつまでも静かに残り続けた。