夕方、帰路につく。私と山田君は、社員寮に住んでるが、女子寮は、借り上げアパートで男子寮とは場所が異なっていた。最寄り駅も一駅違う。山田君はわざわざ、私の降りる駅の改札まで見送りに電車を降りてくれた。負担にならなきゃいいけど、そのうち慣れれば、ここまで送らなくなるのかなと考えた。それはそれで寂しい。わがままだな私は。
改札を出ると、私の目に元カレが入った。改札の外に元カレがいた。私は立ち止まった。なんで。元カレは、私を見つけると私に近づいてきた。元カレが私に話しかけようとした瞬間。私の手が握られた。山田君だった。元カレが話し出す前に、山田君が話し出した。
「僕の彼女に何か用ですか。彼女の手は、今、僕が握ってます。一度、離したものは戻りません。」
そう言い終わると、山田君は、私に小さく「行こ」といって、私の手を引いて歩きだした。二人とも振り向かず、歩いた。黙ったまま、道なりにまっすぐ歩いていた。寮へ曲がる角は、とっくに過ぎていた。私は、それに気が付いて、山田君に「ありがとう」と言った。
山田君も立ち止まって「ごめん」と言って、握っていた手を離した。山田君は、黙ったままだった。私も何を言っていいのかわからなかった。山田君は、私の寮の前まで送ってくれた。山田君にここでいいよというと、彼は、私が部屋に入るまで見てから、帰るといった。玄関で振り返ると山田君が私を見ていた。私は、彼に小さく手を振って、部屋に入った。
