発見

光士は、自分のアカウントでログインすると早速クラウドの報告書を会社の人事宛てに送った。一仕事終えて、ふと父親のパソコンのスペックに違和感を持った。あれ、このパソコン、ゲーミングPCじゃないか?父親のパソコンには、動画鑑賞や事務処理では不要な画像処理機能が組み込まれていた。なぜ?と思いなんとなくフォルダを適当に開く。どこにも鍵はかかっていない。偶然開いたフォルダに大量の画像があった。ゲームの画像だ。
「男性キャラは、Jc Crashというのか。女性キャラはHot Spice。」親密そうな2ショットがたくさんあった。
インストールされているゲームは老舗のオンラインゲーム。画像から読み取れる情報をスマホにメモしていく。所属フリーカンパニー、サーバ名・・・。
光士は、Hot Spiceが自分の母だとは、まったく、考えなかった。子供のころから、両親二人が、ゲームをやっているところを見たことがなかったからだ。両親は、ゲームには寛容だったが、あまり同じゲームをやったことはなかった。パーティゲームやミニゲームなど一緒に短時間でやれるものしか思い出になかった。父親と思われる男性キャラが、ゲームの世界で女性キャラと親密にしている。光士の妄想は、斜め上に進んでいき、「浮気をしている」にたどり着いた。ゲーム内で浮気が成立するのか知らないが、光士には、円満な家庭に由々しき事態が生じていると思われた。証拠を一通り集めて、パソコンをOFFした。

実家にて

実家につき、挨拶だけし、まだそのままの自室に駆け込んだ。新人研修報告書を提出するためだ。報告書自体は、完成してクラウドにあった。提出するだけなのですぐ終わると思った。
しかし、ノートPCの電源が入らない。昨日、給電しないまま、寝落ちしたので、バッテリーが切れているようだった。充電しようと思ったが、
「こいつ専用の充電ケーブルが必要じゃん。」とケーブル忘れたことに絶望した。
仕方ないので、父にパソコンを借りることにした。父に相談すると、「アカウント作ったので使っていいよ」と言われた。

父=僕は、光士にPC貸してほしいと言われたので、息子用のアカウントを設定した。オンラインゲームがサービス停止中でなかったらエオルゼアに入っているので貸せなかったなと思った。

光士

光士は、就職してから半年がたち、生活にも慣れてきた。昨日は、金曜日でもあり、夜には、仮想テーマパークの友達とオンライン飲み会があった。ちょっと飲みすぎで、朝、けだるく起き上がることができなった。
そうだ、今日は、久しぶりに実家に帰る予定だった。珍しく母から、この期間指定で帰って来いと連絡があった。重たい体を無理やり起こし、帰る準備を始めた。
アパートを出ようとしたとき、新人研修報告書の提出を忘れていたのに気が付いた。そうだ、昨日出さなきゃならなかったんだ。と思い出し、ノートPCをリュックに突っ込み、家を出た。
アパートと実家は、そんなに離れていない。1時間程度だ。毎日の通勤を考えると少し遠かった。何より、両親から離れて一人暮らしがしたいという願望もあった。
母親には「チームワーク」という謎に熱い一体感を求めるところがあり、正直うざかった。幼い時は、それが心地よく楽しかったが、反抗期に入ると暑苦しく感じるようになった。
自分が感じているだけなのかもしれないが、一人っ子であり、成長するにつれて向けられる期待が重たかった。父も母より年下なのか、母の尻に敷かれる感じで、同じ男性として頼りないと感じていて、見ていてイライラした。自分は、そういうのは嫌なので、結婚するなら同い年か年下の人が良いと思っていた。

システム移行

僕たちが、また二人だけの生活になって、半年が過ぎた。光士が大学を卒業し、職場の関係で一人暮らしを始めたからだ。それで大きく生活が変わるわけではない。僕ら夫婦には、30年以上夫婦の時間がある。子供には秘密の。
二人でエオルゼアにインすることだ。それが、約1か月、システム移行のためサービス停止になる。このオンラインゲームは、これまでも何度かの大規模なシステム改修があったが、こんなに長く停止することはなかった(新生という改修の停止期間はあったらしい)。今回は、本体グループの仮想空間のテーマパークに統合されることになったため、長い、移行期間が必要になった。1か月のエオ断ちで生活できるのか、禁断症状が出ないのかが心配だった。僕たちは、息子に光士となづけるバカ親になっていたから。
まあ、仕事もあるので、平日は、何とかなるだろう。この機会に読書や映画を見るのもいいかもしれない。週末は、リアルで出かけてみるのもいいかもしれないと思うことにした。

計画通り

今日は、山田君が計画したアジサイ寺院デート。地味すぎるだろうと思ったら、結構若い人いるんだね。映えるというのかな。季節なんだけど、ちゃんと雨が降ってきた。すごいね、山田君。しかも小さい折り畳み傘用意して。わざとでしょ。ちゃんとわかってる。だって、この日の天気は晴れって、予定に書きこんであった。山田君の持つ一つの傘に二人で入る。

別にカコちゃんでも、山田君でもいいんだけど、これだけは言っておきたかった。
「無理しないでね。続かないから。あと、遠慮はだめだよ。二人の間では。私の場合、遠慮は言い訳だったよ。やりたい様にやってください。不満が出たらその場で言うからね、私も。」
「無理なんかしてないし、不満なんかないよ。」といって、傘を私の方に傾ける。
「今はね。でも絶対変わるから。私たちも、周りも。そん時のことだよ。」と、傘を押し返して、ぎゅっと山田君に体を寄せた。計画通りだ、私が傘を忘れたのは。
静かで、優しい雨が、二人の肩を濡らしていた。いいんだよ、二人で濡れれば。私だけとか彼だけとかじゃなくて、二人で。そうやって歩いていきたいな、彼と。
「濡れちゃったね。ごめんね、変な計画立てて。」と山田君が謝ってきた。
「いいんだよ、私の計画通りだよ。」と私が返す。
山田君は、私を見て、「おかしな二人だね。」とほほ笑む。
「おかしいけど、楽しいね。」と私も彼に微笑み返した。

おしまい

バーチャルデート

その日の夜は、カコちゃんの誘いでクルザス西部高地に二人で向かった。昼間とは性別が逆転してるけど。丘の上に登って、暗くのなるのを待つ。カコちゃんが、今日、オーロラが見えると調べてくれていた。
ぼーっと、空が光り出す。幻想的な風景に包まれた。

「カコちゃん。きれいだね。」
「えっ、私。照れるな。」
「違うよ。オーロラだよ。カコちゃんもきれいだけど。」
結局、僕は、男の気持ちになれたのか確信がないままだった。でも相手を思いやる気持ちが大事なことは分かった。私がフラれた原因が分かった気がした。変化に疲れたのが一番の理由だけど、二人の関係に甘えて、放置しちゃったんだよね。きっと、挽回するチャンスも時間もあったのに。
「カコちゃん。」
「何、ベンタ君」
「帰りのこと、ごめんね」と私は山田君に謝った。
「今は山田になれないよ。別に、ベンタ君の所為じゃないし。やりたい様にやっただけ。」
「手を握ってくれてありがとう。すごく安心した。ここじゃ、僕がカコちゃんにやってあげられることは、まだ少ないけど、話相手にはなれるし、そばに居られる。それだけ。これから追いつけるように頑張るね。」
「いいよ、がんばらなくても、ゆっくりいこ。」
僕は、おかしな二人だと思ったけど、これでいいとも思った。
「これからもよろしくね。カコちゃん。」
「こちらこそ、よろしく。ベンタ君。」
空が明るくなってきた。きらきらとスターダストが舞いだした。それが、二人を包んでいた。

帰りの出来事

夕方、帰路につく。私と山田君は、社員寮に住んでるが、女子寮は、借り上げアパートで男子寮とは場所が異なっていた。最寄り駅も一駅違う。山田君はわざわざ、私の降りる駅の改札まで見送りに電車を降りてくれた。負担にならなきゃいいけど、そのうち慣れれば、ここまで送らなくなるのかなと考えた。それはそれで寂しい。わがままだな私は。
改札を出ると、私の目に元カレが入った。改札の外に元カレがいた。私は立ち止まった。なんで。元カレは、私を見つけると私に近づいてきた。元カレが私に話しかけようとした瞬間。私の手が握られた。山田君だった。元カレが話し出す前に、山田君が話し出した。
「僕の彼女に何か用ですか。彼女の手は、今、僕が握ってます。一度、離したものは戻りません。」
そう言い終わると、山田君は、私に小さく「行こ」といって、私の手を引いて歩きだした。二人とも振り向かず、歩いた。黙ったまま、道なりにまっすぐ歩いていた。寮へ曲がる角は、とっくに過ぎていた。私は、それに気が付いて、山田君に「ありがとう」と言った。
山田君も立ち止まって「ごめん」と言って、握っていた手を離した。山田君は、黙ったままだった。私も何を言っていいのかわからなかった。山田君は、私の寮の前まで送ってくれた。山田君にここでいいよというと、彼は、私が部屋に入るまで見てから、帰るといった。玄関で振り返ると山田君が私を見ていた。私は、彼に小さく手を振って、部屋に入った。

リアルデート

週末、カコちゃんを見習って私から山田君を誘った。ゲームに影響でないように昼間のデートを計画。私が行きたかった海が見えるカフェ。元カレと行こうと思っていたのは秘密。調査不足で、天気も良かったから、すごく混んでた。二人で席に座れたけど海は見えない席だった。
「せっかく来たのに、風景見えないね。」と私が残念がった。
「いいよ、計画立ててくれて助かった。僕も、こういう計画ができるようにならないとね。」
「いいんだよ。お互い得意な分野で助け合っていけば。そう思わない。」
「ありがとう。優しいね。」
「うん。ありがとう。私の評価、上がったかな。」
私の計画で、楽しい時間が作れたと思う。まだ、二人が近くにいるから、こういう計画も気軽に立てられる。環境が変わったら、また同じようになるんじゃないかと思うと怖かった。

極討滅戦

CWLSからお手伝いがカコちゃんを含めて6人集まった。新生の極討滅戦なので、それほど時間はかからないと言われた。

カコちゃんはヒーラーで参加していた。「まずは、説明なしで行くね」と言って、戦闘が始まった。当然分けがわからず、僕とルカ君だけが倒れていた。なんかギミック処理があるらしく僕が処理できず、全滅した。真討滅戦とは全然違うじゃん。でも弱音は言えない。カコちゃんがいるから。
「じゃギミックの説明するね」とカコちゃんがギミック処理の説明をしてくれた。
再開する。超える力は有効なんだけど、全く楽になった気がしない。でもカコちゃんが説明してくれた通り、動くと被弾しなくなった。
再度、ギミック処理を僕とルカ君が間違えて全滅した。
誰も文句いわず、もう一度やろうと言ってくれた。カコちゃんにギミックの処理方法を再確認して再開した。
今度はギミックをうまく抜けて、クリアした。LBは、近接ということで僕が撃たせてもらった。クリアおめでとうとメンバに祝福される。仲間って、ありがたないなと感じた。カコちゃんがヒーラーで参加したのは、僕とルカ君を気遣ってだと思う。被弾してもすぐにHPを戻してもらっていた。カコちゃんはすごいな。かっこいくて、優しい。

極解放

その後、下手な二人でストーリーを進めていると消化していない青いサブクエストがあった。二人で受注してみると極討滅戦が解放されたと出てきた。

「極討滅戦って、なに」と僕。
「これって難しいやつじゃないかな」とルカ君。
カコちゃんにさっそく相談する。
「カコちゃん。極討滅戦というのが解放されたんだけど、これクリアしないとだめなやつかな。」
「いいや、必須じゃないから、やる必要ないよ。でも折角だからみんなで挑戦してみようか。」
カコちゃんにそういわれると、なんか逃げるのが恥ずかしかった。これが男のメンツなのかな。
「そうだね、ちょっとやってみようかな。ルカ君も行くよね。」
「うん、行くよ、僕も」
あまり乗り気じゃないようだけど・・・。巻き込むしかない。
「カコちゃん、僕とルカ君のために手伝いお願いします。」
「わかった。極初めてだろうから、私からCWLSに募集出すね。」