再開

今日もこの世界、エオルゼアに入った。今日は、丘に行くつもりはなかったが、ジョブクエストの関係で上空を通ることとなった。テレポすればもっと近道できるのだが、僕は、安易にテレポを使うのが嫌いだ。貧乏性もあるが、物理的な移動手段を用いた方が冒険感が高まるように感じているからだと思う。船と飛空艇での移動を優先する。リムサから今回もワインポートへテレポせず、コスタ・デルソルへ船で移動し、目的地までマウントで移動する。当然だが、チョコボポーターは、自分のチョコボを手に入れてからほとんど使わなくなった。

飛びながら、丘の上空から下を見る。人がいる。上空で立ち止まって、そのまま見下ろし、誰なのか確認しようとした。

知らない人がぽつんと座っている。そのまま飛び去ろうか迷ったが、話しかけたくなった。僕は身勝手だ、ボッチになったとたん人と話がしたくなる。

座っているキャラの後ろの方の少し離れたところに着地した。そのまま歩いて近づき、「こんにちは」と話しかけた。

若葉のついたララフェルの女性キャラだ。彼女は座ったまま「こんにちは」と返してきた。

僕は、「そこいいですか。」といって、回答を待たず、彼女の隣に座った。座ったと同時に「どうぞ」と返ってきた。

僕は「ここ夕日がきれいなんです。お気に入りの場所です。よく来るんですか?」と会話を始めた。

「このキャラでは、初めてです。前のキャラのフレンドが連れてきてくれた場所です。」

僕は、彼女だと確信した。でも、あえて白々しく知らないふりを続けた。

「そうなんですか、今どの辺まで進んでいますか?」

「まだ始めたばかり。」

「お手伝いしますよ。一緒にID行きましょう。」

「じゃ、ちょっとレベル上げるので。サスタシャにいけるようになったらお願いします。」

「了解です。フレンドお願いします。」

フレンド申請をした。彼女は、びっくりしたのか、ちょっと間があってすぐに承認が来た。

彼女は「成長したね」とぽつりと言った。

僕はそれを無視して。「そろそろ、いきますか?」と返した。

「はい、レベル上げてきます。」

二人は立ち上がった。

彼女は、僕が飛び去るのを待っているようだった。

「私、まだ飛べないよ。」と言ってきた。

「ですよね。じゃ、走っていきましょう。」

と僕は、駆け出した。行き先も聞かずに。勢いよく丘を駆け下りる。とりあえず一歩を踏み出したかった。彼女も、僕の後追って慌てて走り出す。その様子が、可笑しく笑いが込み上げてきた。

僕は、今日も、丘の上で夕日を眺めている。今、隣には、誰もいない。でも一人ではない。たくさんのヒカセンが一緒だ。

冒険は続く。僕らしく僕のままで。

おしまい

身バレ

請負チームに次の新しい製作の仕様の説明を行った。自分のパソコンで資料をプロジェクターに写し、説明した。説明が終了し、資料を閉じた。デスクトップの壁紙は、JcのSSのままだ、いままで身バレしたことはないので、ずっとそのままにしている。

Jcの雄姿が大きく、スクリーンに映し出されている。誰の興味を引くこともなく、片付けが終わった人から会議室を出ていく。

僕は、機器の片付けがあるのでいつも会議室からの退出は最後だ。なぜか、リーダさんが席から立たず残っていた。

ぽつりと「もしかして、ジェーシーさん?」。びっくりした。初めての身バレだ。

当然彼女のキャラが誰なのかわからない。「そうです。ヒカセンさんですか?」と返した。

彼女は、寂しそうに「私もやってた。」とつぶやいた。「引退されたんですか?」と聞くと「いろいろあって」と消えるようにつぶやいた。なんと返せばよいのだろう、周りでやめた人で知っているのは、彼女だけだ。ただ確信はない。

僕も「いろいろありますよね。私もFC抜けました。またボッチです。でも、何度でもやり直せばいいじゃないですか。ゲームなんだから。」本心なのか、当たり障りのない回答を選んだのかわからないまま言葉を返した。それに対して、さらに小さい声で彼女は、「そうですね。」とつぶやいた。そこで会話は終わった。

あの丘の上で

次の日、僕は、FCを抜けた。マスターからも先輩ちゃんからも引き止められなかった。先輩ちゃんから一言「行ってらっしゃい」とだけ言われた。

僕も、「行ってきます」とだけ返した。

今日はあの一連のクエストの最後のクエストを受ける日だ。クエストの地図は、コスタ・デルソルのあの丘の上を指している。偶然?、なんでと思った。

彼女との旅も今日で終わりだ。丘に登った、僕にとっては、見慣れたいつもの風景が目の前に広がっている。

彼女は、海の方を向き「お母さん、ただいま」と言った。黙ったまま、しばらく、やさしい海風に吹かれていた。

彼女は、母親に会えたのだろうか。そして、最後の時が来た。彼女は言った。

「ここは母が好きだった場所。母に会えたきがします。祖母あての手紙を読み、両親にちゃんと愛されていたんだとわかった。今まで自分の出生を恨んでたいたことが、バカみたい。私は今のそのままの自分を受け入れることができました。イシュガルドへ戻り、竜と人との交流に尽力したいと思います。今まで、一緒に旅をしてくれてありがとう。」

複数の返答の選択肢が表示された。あえて「・・・」無言を選んだ。言葉にできなかった。キャラデリして忘れかけていた彼女の顔が浮かんだ。 しずくが落ちた。あふれたものが頬を伝っていた。暖かいものが溢れて止まらなかった。

陸灯台の上で

「このキャラクターは削除されました」という無機質なメッセ―ジだけが彼女の痕跡となってしまった。

FCには、新しいメンバが数人入ってきた。若葉も混じっている。

新人ちゃんは、先輩ちゃんになっていた。相変わらずのなりきっていない姫ちゃん語だったが、若葉メンバを引っ張って、ダンジョンに突入していた。

新人ちゃんは演じているのだろうか。マスターは、演じることから解放されたのだろうか。

そんな時、新人ちゃん改め先輩ちゃんとFCハウスでばったり会った。

聞きたかったことがあった。先輩ちゃんに「その話し方時は、わざとやっているのですか」と尋ねた。

「これが自分。これが飾らない自分のしゃべり方だよ。」と返ってきた。

はっとした。そんな気持ちを整理する間もなく。「ちょっと時間ある。話したいことあるんだ。」と言われた。

「時間ありますよ。」と返した。「じゃ、外行こう。お気に入りの場所に。付いてこい。」と言われた。

ついたのは、クルザス西部高地のあのクエストの陸灯台の上だった。

今日は、珍しく快晴だった。一面の荒涼とした雪と氷の世界が広がっている。

「私、マスターと付き合ってるんだ」と話し始めた。

知ってるよと思ったが、「そうなんだ」と返した。

「ここ、マスターに教えてもらった場所。マスターが悩んだ時とか、一人で来るんだって。」

マスターもあのクエストを受けてここに来たのだろうか。ストーリーを進める上では、必須でないサブクエストを。

「この風景見て、思ったんよ。寂しいのかなって。色々話してみな。といったら、堰を切ったように話し出したんよ。」

「つらかったねとか、私みたいに、飾らなくていいよ。とか言ったんよ。そん時は。」

黙って聞いていた。なにか言い返す内容でもなかった。

日が暮れてきた、天気が良いまま夕日を迎えた。

「私が壊しちゃったのかな。FC。」と話が途切れた。

ちょっと考えて返した。

「いいや、みんな演じるのに疲れちゃったんだよ。きっと。演じてなかったのは、僕と君だけだったかもしれないね。」

でも僕の場合は、演じられなかったのか、演じることを知らなかったのか、演じきれてなかったのか、それさえはっきりわからなかった。

すっかり日が暮れて、オーロラが見えてきた。オーロラが出るなんて珍しい。幻想的な風景が二人を包んだ。

「14日は、マスターと二人でここにおったんよ。ずっと。怒っとる?」

関係のない二人が場違いな場所で二人だけという滑稽な状況に笑うしかないなと思った。

「怒ってないよ、怒る立場でもない。僕が僕の役割を演じず、勝手に行動しただけだよ。」

「寒いから戻ろうか」とパソコンの前の僕には、ありえない理由で会話を打ち切った。 先輩ちゃんも「寒いって?帰ろうか。」その場でわかれず、わざわざ、FCハウスまで戻ってから解散した。

クエスト9 「祖母との対面」

次に僕たちは、リムサロミンサへ向かった。そこから船でコスタ・デルソルに向かい、祖母の行方を捜した。

踊り子の娘というヒントで、富豪ゲゲルジュの下で働いていることが分かった。

祖母は健在だった。事件経緯から祖母へは、夫婦の死も、孫の状況も知らされていなかった。ただ、突然音信不通になって、心配をしていた。

しかし、豊かでない生活で、鎖国中のイシュガルドへ向かうことなどできなかった。

初めて会う孫に戸惑いつつも、母親の面影を見たのだろうか、しっかり彼女の手を握りしめた。ここで、祖母は、彼女の母、自分の娘の死を知ることになる。

しばし、遠くを見つめ、涙ながら、孫をしっかり守ったんだねと娘を褒めた。

母から祖母に宛てた手紙を見せてもらった。そこには、娘の誕生といとおしい存在、将来の夢と希望がつづられていた。灯台守は、危なくつらい仕事だが、かなりの高額な報酬であり、将来は、娘のためにも温暖なところで商売を始めたいと書かれていた。 祖母は、近くに娘が好きな場所があって、いつもそこで踊りの練習をしていたと教えてくれた。そこに帰ってきているかもしれないから、娘、彼女の母に会いに行ってほしいと頼んだ。

職場にて 4

FCのごたごたが心に引っかかったまま、仕事には向き合わなければならなかった。翻って仕事は、順調だった。特に請負チームと僕のコラボの4人チームは連帯感が生まれた。無理な仕様変更の案件達成がLight Partyでのダンジョンクリアと重なった。パソコンのデスクトップの壁紙を自キャラJc CrashのSSに変えた。なんか、仕事中もキャラから力をもらっている感じがした。請負リーダさんに改めてお礼を言いに行った。

リーダさんは、コーヒーを片手に休憩室でたたずんでいた。

「無事納品できました。ありがとうございます。これも請負チームの協力のおかげです。」

なんかリーダさんは、ちょっと元気がなかった。

「いいえ、仕事ですから」 とだけ言って、自席に戻っていった。残業続きだったため疲れているのかなと思っただけで、それ以上は深く考えなかった。それより自分には、次の仕事が入り、その調整の方が気にかかっていた。

崩壊

次の日から彼女がインしなくなった。僕は、あの後、彼女に会えていないので、彼女にマスターの気持ちを伝えていない。彼女は、気が付いていたのかもしれない。マスターの気持ちを。

彼女の不在は、FCの雰囲気を一気に悪くした。サブマスのフレンド組が、この件で、あからさまにマスターを非難するようになったからだ。彼女がFC運営の運営面を一手に引き受けていたので、FCのすべてが滞った。そう、彼女も理想の後輩を演じていたのかもしれない。組織を円滑に回すのは、それなりに苦労があったと思う。僕はそれにのほほんと乗っかっていた。自分の役割を理解も演じもせずに。

彼女が戻らないまま、数週間が過ぎると、フレンド組のほとんどがFCを抜けていた。固定も解散していた。公募組は、無関心なのか、逃避なのか、いつもの通りの日常を過ごしているように見えた。ここでも中途半端な自分を恨んだ。フレンド組なのに、なんの行動せず日々を過ごしている自分を。 人が減ったので、マスターが唐突にFCのメンバ募集を始めた。これが引き金だったと思う。彼女がキャラクターを削除した。

クエスト8 「誕生」

はぐれ竜と夫婦の交流は、その後も続いた。ある日、迷信が真実となった。子供を授かったのだ。その知らせを聞いた、はぐれ竜も子供に会うことが楽しみであった。ほどなくして子供が生まれた。竜からしたら小さくか弱いその存在に畏れおののいた。

遠くから眺めることしかできなかった。もう少し大きくなったら触れることができると次の再会を楽しみにしていた。

その再開の日に悲劇が起こった。夫婦が盗賊に襲われたのだ。人里離れた僻地に金目の物などない、盗賊もほとんどいないこの場所にただ通りがかったたちがわる連中に目をつけられてしまった。

竜は遠くに、夫婦が赤ん坊をかばうように守っているところを襲われる様子を目にした。

竜は怒り狂い、盗賊を残らず八つ裂きにしてしまった。その静寂の中で赤ん坊の泣き声だけが響いていた。竜は、残された赤ん坊を助けることを考えた。

人を呼ぶことにした。警備の兵士に自分を追わせて赤ん坊を発見させたのであった。

はぐれ竜は、竜の世界にも戻れず、人へも絶望し、一人孤独に十数年間過ごしてきた。この出会いで初めて娘と直にふれあった。他者との交流は、あの事件以来となる。

人にとって竜は恐ろしい物、娘にとっては、人でさえ恐ろしいものだった、竜は未知の物だった。竜を触れ、抱き合った。竜は、暖かかった。少しだけ彼女の心を閉ざしている氷が溶けたように思われた。

それから、はぐれ竜は、母親との交流の話、母親の生い立ちの話を始めた。母親は、ワインポートの出身で、その後、祖母は、コスタ・デルソルで仕事をしていると教えてくれた。母親は、東ラノシア出身のヒューラン ミッドランダーだったことがわかった。 はぐれ竜とは、またの再会を約束して別れ、僕たちは、イシュガルドに戻った。

夜空

僕は、コスタ・デルソルの丘に戻った。彼女はもういなかった。夜だった。空を見上げた。星が瞬き、天の川が広がっている。

時折、流れ星が流れる。普通は、流れ星が消える前に願いごとをするのかなといきなり変なことが頭に浮かんだ。

今の願いは何かなと考えた。彼女の思いがかなうこと。僕の思いがかなうこと。どちらも自分勝手な願いだ。

僕のキャラは、今までと何も変わらない。当たり前だ、この世界でキャラを操作しているのは、パソコンの前にいる「僕」なんだから。僕は、自分勝手だ。何の結論も出ないまま、その日は終わった。

FCハウス

FCハウスの応接には、マスターと新人の二人がいた。

新人に聞かれても困ることはないと思ったのでSayでチャットを始めた。

「マスターは、サブマスの事、どう思っているんですか?」

唐突すぎるだろう。でも他の会話から始めたら、たぶん、この言葉は出なかったと思う。

マスターは、普通に、「すごく助かっている。運営面でも、フレンドがたくさんいて、イベントの主催とかできるし。」

と返した。そうだよね、「サブマス」としての思いを聞いたんだから・・・。

僕は、再度、「彼女、昨日会えなかったと言っていました。会えない理由がありますか。」

新人が席を立った。マスターに向かって「じゃ、後でね」といって、ハウスから出て行った。

新人は、いたって常識的な人だった。怒り出すでもなく取り乱すでもなく、その場をマスターにゆだねた。マスターは、新人を見送ると、しばらく黙ったままだった。

沈黙の後、ぽつりと語り始めた。

「彼女の気持ちは、ずっと感じていた。重荷だった。彼女の中の自分は、完璧な先輩だった。」

僕は、何も言い返せなかった。マスターも普通の人だ。ちょっと操作が上手いだけの普通のプレーヤーだ。

「FCマスターに担ぎ出されたのも彼女の提案で、彼女のフレの署名済みで、彼女のおぜん立てがすべてそろっていた。」

続けて

「彼女が自分に追いついて、高難易度に行きたいと言ってきときに、既に固定が組まれていた。自分は、固定主に収まっただけだった。」

そうだったんだ。マスターも理想の先輩キャラを演じていたんだ。

「彼女に愚痴なんて言えない。先輩像を壊すだけならいい。周りを巻き込んじゃうのが怖かった。」

「昔、一度だけ、彼女に愚痴を言ったこともある。固定メンバの一人が何度も同じミスを繰り返すので、軽い気持ちで、愚痴をこぼしたんだ。」

「そしたら、そのメンバが、ある日固定を抜けて、FCも抜けると連絡があった。理由を聞くと、彼女に強くミスを指摘され辛かったと言っていた。」

「それから、愚痴は言わなくなった。その環境に疲れちゃったんだと思う。彼女のフレでなく、何も知らない新人に愚痴を聞いてもらいたかった。」

この世界は、楽しいことばかりで、理想郷だと思っていた。僕だけがなじめない違和感を抱えているのかと思っていた。

そうではなかった。マスターも同じように違和感を抱えていたんだ。そこに気が付いたとたん、何も言葉が浮かんでこなくなった。

何をしにFCハウスに来たのかさえ分からなくなった。 思いついたのはただ、「すみません。」だけだった。その言葉の後、マスターは、ハウスから出て行った。僕だけが広い応接室のソファに残された。