エタバン

YさんとSpark君のエタバンの式典が行われた。予想に反して、式に呼ばれたのは、僕と彼女だけだった。彼女と二人、彼らの式典の様子を見ていた。なんとも言えない気まずさを感じた。それが何かはっきりわからない。自分が逃げているものの正体を確かめる勇気がなかった。それでも、素直に二人を祝福することはできた。
二人になんで、出席者がFCメンバだけなのと聞くと、Yさんが「私は、撮影会のフレンドとか呼びたかったんですけど、Spark君が、家族だけが良いというので・・。」
Spark君は、「いやー、FCは、家族でしょ。こういうことは、まず、家族にちゃんと祝福してもらわないといけないかなと思って。いろんな人呼ぶと重みが薄まって、ただのイベントになっちゃう感じがして・・・。」
Yさんが、「しかたないな、そういうことなら。」と照れていた。つづけて、
「でもちゃんと、撮影会のメンバとは、2次会あるからね。スタジオハウスを所有しているフレが、ウェディング用に模様替えしてくれているので、そこで2次会兼、撮影会やります。」
Yさんはさらに、僕たちに「二人は2次会に来なくていいです。二人でどっか行ってください。あっ、ご祝儀はお願いします。衣装代にギルが必要なんです。家族ですよね?」
とおねだりされた。そのおねだりエモートどこで覚えたんだよ。
そのままエタバンの二人は、二人乗りマウントで2次会に向かった。僕たちは、それを見えなくなるまでその場で見送った。
彼女と二人で行きたい場所、あの丘の上かなと思って彼女をさそった。いいよと言われたのでPT組んでコスタ・デル・ソルにとんだ。
丘の上に二人並んで座り、黙って海を眺めていた。僕から誘ったんだから、なんか言わなきゃと考えるほど言葉が浮かんでこない。ただ「家族っていいね。」とだけ言った。彼女は「うん」とだけ返した。また黙ったまま、海を眺めた。

スチームパンク

Yさんがいつもより露出が多い衣装を着ていた。いつもそんな服着ないのにどうしたんですかと聞いたら、Spark君と撮影会です。と返ってきた。
スチームパンク風のハウスで撮影会があるそうだ。全く興味がないが、Yさんが踊りを含めたエモートを繰り出すので目が離せなかった。
Yさんが「どうです。この衣装」と聞いてきた。「いいんじゃないですか」と適当に答えた。
「だめですよ。私をねらっても。私、来月、Spark君とエタバンするんです。」
といった。
エタバン、エターナルバンド・・。そういうシステムがあることは知っていたが、身近な人で聞いたのは、この時が初めてだったのでびっくりした。
とりあえず「そーなんだ。おめでとう」といった。
「式には、先輩もHotさんも呼びますね」というと撮影会にむかった。
彼女からは、そんな要求されたことないな。どう思っているんだろう。

小休止

Yさんのロドスト(Loadstone)の日記にSpark君とのSSが良く出るようになった。女子キャラ同士でいろいろなコーディネートを楽しんでいるようだった。僕は、男子キャラなのでおしゃれが羨ましいなと感じる時がある。YさんにSpark君とのSSいいですねというと。
「そうでしょ。最近、撮影一緒にやっているんですよ。この前、ロドストの日記でみたスタジオを一緒に訪問しました。」
楽しそうでいいな。と感じた瞬間、僕たちはどうなんだ。と頭によぎった。過去を引きずっているのは僕の方では。
そんな僕をよそに、Yさんは、「Spark君は、大学院生でだそうですよ。隣の県在住なんですが、県境なので案外近所だということがわかりました。」
「専門が情報工学で、ソフトのこととかも詳しいですよ。」
Spark君のプライベートなことは、知らなかったので、結構オープンな人だったことに驚いた。
「先輩もどうですか、一緒にスタジオめぐり。」
「僕は、いいよ。おしゃれとか苦手だから。」
グループポーズいわゆるグルポでSSを取ることは知っているが、操作は、基本的なことしかわからない。きれいな画像が日記に上がっているが、どうやって撮っているんだろう。

寄り道

若葉二人もLv50を超えて、新生のコンテンツをほぼ終えていた。そのままストーリーを進めてもよかったのだが、4人で次何やろうかという話になった。
Yさんが「高速で進めてきたのでちょっと疲れました。少し休みたい。」といった。
Spark君も「そうですね、ちょっとストーリー整理したいので、小休止ですかね。」と同調した。
まだ先が長いから急いだほうがいいかなと僕は思ったが、彼女から、「サブストーリーも楽しいんだよ。一緒にやろうよ。」と提案があった。
僕は、彼女に追いつくためにメインストーリーばかりを追いかけて、メイン進捗に必須でないサブストーリーには、あまり触れてこなかった。彼女は前のキャラで、提案したサブストーリーをやったことがあったらしい。彼女は、「すごくいいんだよ。私ももう一度やりたい。」と力説し、みんなでサブストーリーを進めることにした。

顔合わせ

アウラさんの新規メンバを迎えたので4人で顔合わせをおこなった。アウラさんの名前はSparkさんだった。「Sparkです。よろしくお願いします。」と自己紹介した。一通り自己紹介が終わると、マスターの彼女から「3人は、リアル知り合いなので、Spark君もオープン気味で大丈夫だよ」と、いきなり男子であることばらしていた。「はぁ、男子であること隠してませんから・・・。」と戸惑い気味で返した。Yさんは、「そういう遊び方もあるんだ。楽しそう。」と、特に疑問に思っていないようでよかった。
4人体制になって、Light partyコンテンツは、身内で進められるようになった。Full partyコンテンツも半数は、身内なので若葉二人には、心強かったと思う。

FC設立

3人でFCを設立することした。設立のためには、もう一人必要だった。ボッチの僕には、彼女以外に頼めるような人もいなかった。彼女が、昔のフレンドと連絡を取って、署名協力者をお願いしてくれた。彼女のフレンドは、彼女が昔の姿で名前を変えて、ゲームを続けていることに驚いていたが、快くFC署名に協力してくれた。無事FCの設立ができた。
言葉通り、彼女がマスターになり、僕が立場上、サブマスターになった。ここで彼女から「メンバ募集します。3人じゃ、IDに行くにも不便なので。イケメンを最低1人入れます。」と宣言した。
なんで、「イケメン」なんだよと思ったので、彼女と二人だけの時に聞いたら「餌だよ餌。男子1人だといろいろ問題だろ。」と恫喝気味に言われた。何が問題だ?と納得いかなかった。
しかしなから、応募してきたのは、アウラの女子キャラだった。ストーリーの進捗もYさんよりちょっとだけ進でいるだけなので、ちょうどよかったので参加をお願いした。
FCの面接で、中身は、男性です。と告白した。まあ、女子キャラのおおくは、中身男性なのは、知っているので、問題ないよと答えた。その後、応募は全然ない。結局、イケメンキャラの加入はなかった。

幻想

次の日、彼女の見た目が変わっていた。というより以前の姿に戻っていた。
ララフェルからエレゼンフォレスターに変わっていた。びっくりして開口一番「どうしたの」ときいた。
「んっ。気分。だってララフェルじゃミコッテの女子力と勝負にならないじゃん。思い出バイアスをフル活用だよ。」と返ってきた。“何の勝負だよ。”と思ったが、彼女が過去のことを吹っ切ったんだなと思うと、ちょっと嬉しかった。
今日は、Yさんの初めてのID(インスタンスダンジョン)に付き合う予定だ。Yさんも彼女を見て、最初、「誰?」となっていたが、名前見て、「これが噂の幻想なんですねー。すごいなこのゲーム。」と感心していた。
僕がタンク、彼女がヒーラー、Yさんが巴術士でCF(コンテンツファインダー)に申請。カンスト(カウンターストップ=上限値に達した状態、ここの場合ジョブレベルを指す)組が二人いれば、最初のIDは、サクサクだった。
IDの後、Yさんが「ありがとうござます。助かりました。ドキドキですね。」と興奮気味に話し始めた。「今後も3人で進められるとうれしいな。FC(フリーカンパニー)だっけ、ギルド立ち上げましょうよ。」と興奮ついでに提案してきた。
僕は当然戸惑っていたが、彼女はちょっと考えて「いいねー。そうしよう。FC経験から私がマスターね。」といった。
彼女が自分からマスターに立候補したのは、びっくりした。僕にさせなかったのは、やっぱり、マスターの事、引きずっているのかな、と思った。

登場

その夜、エオルゼアにインすると、彼女は既に入っていた。彼女に、職場のYさんがFF14を始めたので今日会うことになっていると伝えた。最初は、興味なさそうだったが、Yさんが部下の女性だというと、私も行くと言ってきた。
溺れた海豚亭について、気が付いたのだが、Yさんの名前を聞くのを忘れていた。見た目もわからないので若葉で初期装備っぽいキャラを探す。Yさんは、壁紙のSSで僕のキャラを知っている。
若葉の一人が、僕に気が付いて、走ってきた。名前を見ると「Takuya Y」となっている。男?見た目は、ミコッテ ムーンキーパーの女性キャラだ。「こんばんは」挨拶が来た。
「Yです。」と本名を名乗った。「Takuyaさん??」、「弟の名前です。名前決められなかったので、名前もらいました。苗字も取るとかわいそうなので、イニシャルのYだけにしました。」といった。Yさんと呼ぶことにした。
「こんばんは」と彼女もあいさつした。
「えーっと、お友達ですか。」とYさんが彼女のことを聞いてきた。
「そうです。Hotさんです。」と彼女を紹介した。彼女は、「Hot Spiceです。よろしく。」とあいさつした。Hot Spiceは、以前のキャラ名とは違う。彼女が、ララキャラを作った時に適当につけた名前だと聞いていた。
「知り合いがいると心強いですね。お友達になってください。」と言ってきたのでフレンド申請をした。彼女も同時にフレンド申請をしたようだった。Yさんに僕と彼女2人で、ゲームの進め方などのアドバイスした。Yさんは、ありがとうと言って、レベル上げてくると旅立った。
この日は、残りの時間で、装備更新のトークンを稼ぐため、いつものように二人でルレを回った。

近況報告

僕は、Jc Crash。読みは、ジェイシー クラッシュだ。FF14を始めて1年が過ぎ、最新ストーリーにやっと追いついた。中堅のプレーヤーに含まれるのかな。メインロールはタンクだ。
僕には、相棒のヒーラーがいる。ララフェルの女性キャラだ。コミュニティには入っておらず、二人で野良パーティを中心にプレイしている。
彼女の方がプレイ歴が長いが、キャラを作り直した関係で、ストーリーの進捗がほぼ同じような状況になった。先月2人そろって、最新コンテンツに追いついた。
彼女から「最新のエンドコンテンツに行けるようになったので、どっかのFCかCWLSのコミュニティに入らない?」と提案があった。
二人ともコミュニティに入いらず、二人で協力してここまで進めてきた。まあ、フレンドがいれば心強いし、しかも相棒のヒーラーがいれば、ノーマルコンテンツで困ることはない。
少し考えてから「そうだね、何をしたいかだよね。」と僕は、彼女の問いについて先送りにするような回答をした。
彼女は、間髪入れず「家が欲しい」と言ってきた。
その提案の意味もよく考えず「お金もかかるし、そもそも土地がないよ。」と答えた。
すると彼女は、そのまま黙ってしまった。
突然コンテンツに突入する音がした。彼女から誘いでパーティに入っていたのだが、彼女が勝手にコンテンツに申請したのだ。タンクとヒーラーなのでルレの申請後、パーティはすぐに成立した。慌てて、準備する。DPSが二人入ったので、彼女に文句も言えないまま、コンテンツを進めた。
そんな二人だった。僕は、彼女との今の関係が心地良く、正直、この状態を変えたくなかった。

再開

今日もこの世界、エオルゼアに入った。今日は、丘に行くつもりはなかったが、ジョブクエストの関係で上空を通ることとなった。テレポすればもっと近道できるのだが、僕は、安易にテレポを使うのが嫌いだ。貧乏性もあるが、物理的な移動手段を用いた方が冒険感が高まるように感じているからだと思う。船と飛空艇での移動を優先する。リムサから今回もワインポートへテレポせず、コスタ・デルソルへ船で移動し、目的地までマウントで移動する。当然だが、チョコボポーターは、自分のチョコボを手に入れてからほとんど使わなくなった。

飛びながら、丘の上空から下を見る。人がいる。上空で立ち止まって、そのまま見下ろし、誰なのか確認しようとした。

知らない人がぽつんと座っている。そのまま飛び去ろうか迷ったが、話しかけたくなった。僕は身勝手だ、ボッチになったとたん人と話がしたくなる。

座っているキャラの後ろの方の少し離れたところに着地した。そのまま歩いて近づき、「こんにちは」と話しかけた。

若葉のついたララフェルの女性キャラだ。彼女は座ったまま「こんにちは」と返してきた。

僕は、「そこいいですか。」といって、回答を待たず、彼女の隣に座った。座ったと同時に「どうぞ」と返ってきた。

僕は「ここ夕日がきれいなんです。お気に入りの場所です。よく来るんですか?」と会話を始めた。

「このキャラでは、初めてです。前のキャラのフレンドが連れてきてくれた場所です。」

僕は、彼女だと確信した。でも、あえて白々しく知らないふりを続けた。

「そうなんですか、今どの辺まで進んでいますか?」

「まだ始めたばかり。」

「お手伝いしますよ。一緒にID行きましょう。」

「じゃ、ちょっとレベル上げるので。サスタシャにいけるようになったらお願いします。」

「了解です。フレンドお願いします。」

フレンド申請をした。彼女は、びっくりしたのか、ちょっと間があってすぐに承認が来た。

彼女は「成長したね」とぽつりと言った。

僕はそれを無視して。「そろそろ、いきますか?」と返した。

「はい、レベル上げてきます。」

二人は立ち上がった。

彼女は、僕が飛び去るのを待っているようだった。

「私、まだ飛べないよ。」と言ってきた。

「ですよね。じゃ、走っていきましょう。」

と僕は、駆け出した。行き先も聞かずに。勢いよく丘を駆け下りる。とりあえず一歩を踏み出したかった。彼女も、僕の後追って慌てて走り出す。その様子が、可笑しく笑いが込み上げてきた。

僕は、今日も、丘の上で夕日を眺めている。今、隣には、誰もいない。でも一人ではない。たくさんのヒカセンが一緒だ。

冒険は続く。僕らしく僕のままで。

おしまい