丘の上で

Smith二人組から解放されて久しぶりにいつもの日常が戻った。今日のコスタ・デル・ソルの天気は、晴れだ。二人で進めているクエストの途中でちょっと寄って行こうかとあの丘へ向かった。心地よい風が吹いている。二人して、丘に上に座った。こうして海を眺めるのは何回目だろうか。
「まだ続くね。この旅。来月のパッチで新しいコンテンツが追加されるみたいだよ。」
彼女は黙っていた。そして僕の話には答えず。
「いつかあなたの旅が終わったとしても、私、待っているね。ずっとここで。」
僕は確信していた。はっきり言える自信があった。
「あぁ、必ず、戻ってくるよ。そして、また、一緒に冒険を始めよう。」

いつか必ずこの旅が終わる時が来るだろう。それがいつなのか僕は知らない。それまで僕は、今日を生きる。時には走り、時には立ち止まり。だって、まだ、君との旅の途中。

おしまい

正体バレ

ムービーが終わると、そこには二人だけしかいなかった。「あれ、マスターたちがいない」とMoonちゃんが言った。「あいさつしに行こうか」とIDから出ようとする。「ちょっと待って」とMoonちゃんを止めた。「ありがとう。なんか、すっきりした。」とSun君は、Moonちゃんにお礼を言った。「ううん、一緒にここ、クリアできてうれしいよ。」とかえした。
二人は、クエストを終えるとマスターにTellした。あいさつしたいのでどこ居ますか。と尋ねた。サブマスと二人で中央森林に居ると返ってきた。

緑が美しい木漏れ日の中に4人は集まった。
Sun君が僕に向かって「ごめんなさい。隠していたことがあります。父さん。光士です。」と正体を明かした。
僕は、「父さんは、いいけど。母さんに早く謝ったほうがいいよ。」と返した。
僕が驚ないことに驚いて、さらに「えっ、母さん?」と考え込んでいるようだ。少し間をおいて彼女が「光士、何やってんのあんた。」といった。Sun君が茫然としていると。
Moonちゃんが「Sun君ごめんね。全部ばらしちゃった。マスターは、お母様だよ。」
「か、母さん・・・・」
彼女は、「光士、一度除名されたくらいで何引きこもってるの。Moonちゃんを心配させるな。」
光士は、妙に素直に「ごめん、母さんと知らなくていろいろ、考えちゃって。父さんも疑ってごめん。ID攻略で母さんの言っていたチームプレイの意味が分かった気がする。」
彼女は、「そうでしょ。ずっと言ってきたこと、やっとわかったか。」と満足げだった。
僕は、「これからも、攻略手伝おうか」というと、Sun君は「もう大丈夫、一人で進められるよ。」とこたえる。すると「二人ででしょ!」とMoonちゃんに突っ込まれた。笑いがこぼれた。

ラスボス

3ボスへ進む。ここは、Sun君もMoonちゃんも未経験となる。大きなAOEが連続で出てくる。僕と彼女は、慣れているので、避けることができるが、Sun君とMoonちゃんは対応できず、倒れた。まず、彼女は、まず、Moonちゃんを起こし、HPを戻した。全体攻撃が来るので、HP戻しが優先だ。僕も軽減を入れて協力する。次に、Sun君を起こすのだが、詠唱時間をキャンセルできるスキルは、Moonちゃんで使ってしまった。蘇生は、長い詠唱が必要だ。その間、ヒーラーは動けない。僕はナイトだ、かばうスキルを彼女にかけた。自分とMoonちゃんにも投げられる軽減を入れた。Sun君が立ち上がる。次にAOE連続が来るので、僕は、「僕の動き見て、ついてきて」と避け方を教える。彼女もHPを全快まで戻した。全員無事にAOE攻撃をきり抜けた。

3ボスのHPの残りが10%を切ったとき、僕は、ふと攻撃の手を止めた。手を抜いたんじゃない。この時間を1秒でも長く続けたかった。それだけだ。彼女を見るとヒールしかしていなかった。同じ思いなんだなと思った。3ボスのHPが5%を切った時、「Sun君、LB!!」とMoonちゃんが叫んだ。Sun君は、それにこたえて竜騎士のLBを放った。3ボスは、討滅された。二人は、初見なのでムービーを見ていた。彼女は、僕に、「二人にしよ」と言ってきた。僕たち二人は、IDから抜け、ムービーごゆっくりというメッセージを残してパーティからも抜けた。後悔は、トナカイの着ぐるみであったことだ。IDから出るとそっと、いつものお気に入りのミラプリに戻した。

リベンジ

僕たち4人は、イベント終了後、そのまま、IDに突入した。しまった、こんな大事なID攻略に僕は、トナカイのミラプリのままだった。IDに入ってしまって切り替えられない。マスター=彼女は、今日は白魔道士だった。彼女を見ると、“何それ、キレッキレの真っ白な衣装じゃん。“ 武器も光っている。いつの間に用意したのだろう。気合が入っている。Moonちゃんもレベルにあった自作装備に統一されていた。Sun君はMoonちゃんからプレゼントされたおしゃれ装備でミラプリしていた。僕だけが着ぐるみだ。
戦闘が始まればそんなことは関係ない。タンクの役割を果たすだけだ。1ボスで、Sun君が倒れた。彼女がすかさず蘇生を入れる。「早く立ち上がって、すぐにHP戻すから」と鼓舞する。Sun君は立ち上がり、戦闘を再開した。1ボスを倒し終わると、Sun君が彼女に「蘇生ありがとうございます。」いった。彼女は、「ヒーラーの仕事だから、気にしなくていいよ、チームプレイだよ。」といった。Sun君は、“チームプレイ”、母の口癖だったなと母の顔が思い浮かんだ。

道中には、問題なく、2ボス戦に入った。2ボスは、因縁のボス戦だ。Sun君は、ここで倒れ、除名された。やはり、前回と同じギミックでSum君が倒れた。彼女が、ここでも
「早く立ち上がって、HP維持するので攻撃に集中していいよ。」と蘇生を送った。
難しいギミックは、そこだけで、その後は、Sun君もMoonちゃんも被弾したが、彼女のヒールで支えられていた。

イベント

ゲーム内は、すっかり年末の雰囲気になっていた。ゲーム内のイベントはクリスマスではない。ゲーム内に設定された記念行事だ。プレイヤーは、リアルの年末と同じような感じでイベントを楽しんでいる。イベントは、Sun君、Moonちゃん含めFCのメンバ8人が参加した。イベントは、かくれんぼだ。僕がトナカイの着ぐるみをきて、グリダニア市内に隠れる。1番最初に見つけた人が、願い事を言って、他の人がその実現に協力するという内容だ。

かくれんぼは出来レースだった。Moonちゃんが一番になる様にFCのメンバとは調整していた。知らないのはSun君だけだ。当然、Moonちゃんは、僕の隠れている場所を知っている。グリダニアのエーテライトプラザに参加者が集合、僕が、先に隠れに行って、3分後に捜索開始という手順だ。僕は、遠回りして、絶対にそこに隠れないだろうという場所、カーラインカフェに向かった。出来レースなので座ってお茶を飲み始めた。
Sun君には、マスターがついて、居場所を僕にTellしてきた。協力してくれたFCの人たちにも、面白がって適当に動いてくれた。盛り上がりの頃合いをみてMoonちゃんに発見された。みんな役者だ。Moonちゃんからお願いが発表された。「マスターさん、サブマスさんとSun君と私で未攻略の開放IDに挑戦することです。」だった。
未攻略の開放IDとは、Sun君が除名されたIDだ。

復帰計画

Moonちゃんは、一人納得して。「マスターさんは、お母様だったんですね。」
マスター=彼女は“お前にお母様と呼ばれる筋合いはない”と怒りをおさえつつ。
「Sun君が光士ということなのね?」「二人で何してんの?目的は何?」
彼女は、完全にお怒りモードだ。僕は、疑いから解放されて、茫然としている。
Moonちゃんは、潜入調査について全部説明してしまった。
僕は、「ゲームやっていたのを隠していたのは、悪かったと思うけど。父親を疑うとは許せないな。」
Moonちゃんは、恐縮して「ごめんなさい。光士君から相談受けて、つい。」
彼女は、完全に母親の顔になっていた。「光士は、1回除名されたくらいで。情けない。」
僕は、気持ちがわかるだけに、「そこまで言うことないのでは? ショックはショックだよ。でも疑われた身からしたらなんか許せないな。」と返す。
僕は、「Sun君を復帰させて、なんかしたいな。Moonちゃんも協力して。今回のことは、Sun君には秘密で。」Sun君復帰計画を練り始めた。

暴走

ここでMoonちゃんが突然暴走しだした。「お二人は、家族に隠していることないんですか?」と質問してきた。
「隠し事?家族に?」と二人して考え始めた。彼女は、「1日の出来事を全部話しているわけでないので、家族が知らないことはある思うけど・・・。」と答えた。
僕は、ちょっと考えた後「この前、息子にゲームやってないかと聞かれたな。とっさに、やってないって嘘ついちゃった。」
Moonちゃんは、「それです。お父様は、ゲーム内で何をされているんですか?」
お父様?????なに????
「なにって、サブマス?タンク?」
間抜けな、回答に対して、Moonちゃんが詰めてきた。
「浮気のようなことされてませんか。」
彼女がその言葉に反応して、「Jc君、浮気してんの?」
僕は、「いやいや、してないよ。」となんでこんな状況になっているのかパニックになった。
Moonちゃんがさらに彼女に向かって「マスターさんもです。お子さんまでいるのに。」
彼女も「えっ、私も??」
Moonちゃんは、「お二人は、どのような関係ですか?」とさらに詰める。
二人して、「夫婦ですけど・・・。」
「ん? 夫婦?」、Moonちゃんが突然停止した。沈黙が続いていた。
“サブマスさんは、光士君のお父様。マスターさんは、結婚していて、子供が一人。子供が一人=光士君”にやっと、つながった。
Moonちゃんは一人納得して、「あー、そうだったんですね。なんだー。早く言ってくださいよー。」
僕たち二人して、Moonちゃんに「で、何を?」。

誤爆

僕がFCハウスに入るとMoonちゃんが、一人、FCハウスでたたずんでいた。Sun君は、あれ以来、数日間インしていない。僕は、「あれ、Moonちゃん、今日は一人?Sun君は?」と聞いた。
「ちょっとトラブルがあって、それから入ってきません。」Moonちゃんは除名の事の顛末を話した。
僕は、思わず「あー、わかるは、それ」懐かしい感情がよみがえった。
「やっぱり、除名されたのがショックだったんですかね。」
「それはそれでショックだったと思うけど、それ以上にMoonちゃんと一緒だったことがショックだったんだよ。倒れただけでもかっこ悪いのに、挽回の機会もなかったからね。」
「私何とも思ってません。」
「そういうことじゃないんだよ、かっこよく見られたいんだよ。かっこ悪いところ見られたくないじゃん。」
「そういうもんなんですか。」
「そういうもんだよ。単純なんだよ。」
「わかるんですね。やっぱり、親子なんですね。」
思わず、Moonちゃんは、口走ってしまった。
「んっ、親子って、どういうこと?」
「あっ、なんでもないです。忘れてください。」
「いやいやいや、親子って、誰と?」
そこにマスター=彼女が入ってきた。「楽しそうだね。」彼女は、Moonちゃんを僕と挟む形で座った。

失敗

秋に開始したので、冬になると、Smithペアの二人もクラスからジョブに昇格していた。Moonちゃんが詩人に、Sun君が竜騎士になっていた。しかし、マスターの指導を直接受けていたMoonちゃんの上達は目覚ましく、Sun君とは操作レベルには大きな差がついていた。Smithペアは、ストーリーの進捗は合わせて進めていたので、開放したIDを一緒に行っていた。僕も彼女もいけるときは、サポートしていたが、この時は、二人で別のコンテンツに入っていた。Moonちゃんは、レベルもストーリーに要求されるレベルより上回っていたし、スキルの理解も操作もうまかったので自分たちだけで行こうと提案した。

Sun君も大丈夫だろうと、CFに申請した。
IDに入り、挨拶したが、タンクとヒーラーからあいさつの返しはなかった。この世界にも少ないながら、ちょっと横暴な人がいる。
タンクが走り出し、2人で追いかける。1ボス戦でSun君がギミックにかかって、倒れた。ヒーラーからの蘇生はない。1ボス戦が終わった。ヒーラーから「戻ってきて」とチャットが来た。Sun君は、黙って素直に、スタート地点で生き返り、1ボス地点に戻ってきた。既に、他のメンバは、先に進んでいた。Sun君は、慌てて、スプリントして、パーティを追いかけた。2ボスでも、Sun君がギミックにかかって、倒れた。また、蘇生されず、2ボス戦が終わった。無言でいきなりだった。Sun君がパーティから除名された。
Moonちゃんは、何が起こったかわからず。「あれ、居ない。」というと、
「だって、へたくそだから。今補充かけるから。」と、ヒーラーが言った。タンクは黙ったままだったが、除名に賛成したのは確かだ。
Moonちゃんは、「私も出ます。」と言ってIDから出た。Sun君は、一緒にCF申請した場所にいた。Sun君は、「今日は、やめる」と言って、その場でログオフした。Moonちゃんは、一人残された。

プレゼント

Moonちゃんは、マスターのアドバイスのSun君へのプレゼントを考えていた。裁縫師のレベルがちょっと上がったので、おしゃれ装備を作ることにした。頭、胴、手、脚、足の5か所の装備が全部作れそう。素材集めから始める。中間素材を作って、装備を完成する。この過程が一番楽しい時間だったかもしれない。“出来たー。” 全部HQ品で完成させることができた。おしゃれ装備は、戦闘に使用するわけでないので、性能の差は関係ない。そのため見た目だけならNQ品でもよかった。ただ違いがある。HQ品は、製作者の銘が入るのだ。装備に自分の名前が入る。そこが重要だった。プレゼントは完成したが、渡す口実がなかった。ハロウィーンの季節も終わり、クリスマスはまだ遠かった。プレイ時間55日だったのでゲーム開始50日記念とか適当につけた。

Moonちゃんは、Sun君と会うと、唐突に、「プレイ開始50日記念でプレゼントあげるよ」とおしゃれ衣装を渡した。Sun君は、びっくりしたが「ありがとう。僕は何も用意してないよ。」とお礼を言った。Moonちゃんは、「いいよ、いいよ。勝手に用意しただけだから。」と、渡せただけで満足だった。二人の距離が縮んだ感じがした。