計画通り

今日は、山田君が計画したアジサイ寺院デート。地味すぎるだろうと思ったら、結構若い人いるんだね。映えるというのかな。季節なんだけど、ちゃんと雨が降ってきた。すごいね、山田君。しかも小さい折り畳み傘用意して。わざとでしょ。ちゃんとわかってる。だって、この日の天気は晴れって、予定に書きこんであった。山田君の持つ一つの傘に二人で入る。

別にカコちゃんでも、山田君でもいいんだけど、これだけは言っておきたかった。
「無理しないでね。続かないから。あと、遠慮はだめだよ。二人の間では。私の場合、遠慮は言い訳だったよ。やりたい様にやってください。不満が出たらその場で言うからね、私も。」
「無理なんかしてないし、不満なんかないよ。」といって、傘を私の方に傾ける。
「今はね。でも絶対変わるから。私たちも、周りも。そん時のことだよ。」と、傘を押し返して、ぎゅっと山田君に体を寄せた。計画通りだ、私が傘を忘れたのは。
静かで、優しい雨が、二人の肩を濡らしていた。いいんだよ、二人で濡れれば。私だけとか彼だけとかじゃなくて、二人で。そうやって歩いていきたいな、彼と。
「濡れちゃったね。ごめんね、変な計画立てて。」と山田君が謝ってきた。
「いいんだよ、私の計画通りだよ。」と私が返す。
山田君は、私を見て、「おかしな二人だね。」とほほ笑む。
「おかしいけど、楽しいね。」と私も彼に微笑み返した。

おしまい

バーチャルデート

その日の夜は、カコちゃんの誘いでクルザス西部高地に二人で向かった。昼間とは性別が逆転してるけど。丘の上に登って、暗くのなるのを待つ。カコちゃんが、今日、オーロラが見えると調べてくれていた。
ぼーっと、空が光り出す。幻想的な風景に包まれた。

「カコちゃん。きれいだね。」
「えっ、私。照れるな。」
「違うよ。オーロラだよ。カコちゃんもきれいだけど。」
結局、僕は、男の気持ちになれたのか確信がないままだった。でも相手を思いやる気持ちが大事なことは分かった。私がフラれた原因が分かった気がした。変化に疲れたのが一番の理由だけど、二人の関係に甘えて、放置しちゃったんだよね。きっと、挽回するチャンスも時間もあったのに。
「カコちゃん。」
「何、ベンタ君」
「帰りのこと、ごめんね」と私は山田君に謝った。
「今は山田になれないよ。別に、ベンタ君の所為じゃないし。やりたい様にやっただけ。」
「手を握ってくれてありがとう。すごく安心した。ここじゃ、僕がカコちゃんにやってあげられることは、まだ少ないけど、話相手にはなれるし、そばに居られる。それだけ。これから追いつけるように頑張るね。」
「いいよ、がんばらなくても、ゆっくりいこ。」
僕は、おかしな二人だと思ったけど、これでいいとも思った。
「これからもよろしくね。カコちゃん。」
「こちらこそ、よろしく。ベンタ君。」
空が明るくなってきた。きらきらとスターダストが舞いだした。それが、二人を包んでいた。

帰りの出来事

夕方、帰路につく。私と山田君は、社員寮に住んでるが、女子寮は、借り上げアパートで男子寮とは場所が異なっていた。最寄り駅も一駅違う。山田君はわざわざ、私の降りる駅の改札まで見送りに電車を降りてくれた。負担にならなきゃいいけど、そのうち慣れれば、ここまで送らなくなるのかなと考えた。それはそれで寂しい。わがままだな私は。
改札を出ると、私の目に元カレが入った。改札の外に元カレがいた。私は立ち止まった。なんで。元カレは、私を見つけると私に近づいてきた。元カレが私に話しかけようとした瞬間。私の手が握られた。山田君だった。元カレが話し出す前に、山田君が話し出した。
「僕の彼女に何か用ですか。彼女の手は、今、僕が握ってます。一度、離したものは戻りません。」
そう言い終わると、山田君は、私に小さく「行こ」といって、私の手を引いて歩きだした。二人とも振り向かず、歩いた。黙ったまま、道なりにまっすぐ歩いていた。寮へ曲がる角は、とっくに過ぎていた。私は、それに気が付いて、山田君に「ありがとう」と言った。
山田君も立ち止まって「ごめん」と言って、握っていた手を離した。山田君は、黙ったままだった。私も何を言っていいのかわからなかった。山田君は、私の寮の前まで送ってくれた。山田君にここでいいよというと、彼は、私が部屋に入るまで見てから、帰るといった。玄関で振り返ると山田君が私を見ていた。私は、彼に小さく手を振って、部屋に入った。

リアルデート

週末、カコちゃんを見習って私から山田君を誘った。ゲームに影響でないように昼間のデートを計画。私が行きたかった海が見えるカフェ。元カレと行こうと思っていたのは秘密。調査不足で、天気も良かったから、すごく混んでた。二人で席に座れたけど海は見えない席だった。
「せっかく来たのに、風景見えないね。」と私が残念がった。
「いいよ、計画立ててくれて助かった。僕も、こういう計画ができるようにならないとね。」
「いいんだよ。お互い得意な分野で助け合っていけば。そう思わない。」
「ありがとう。優しいね。」
「うん。ありがとう。私の評価、上がったかな。」
私の計画で、楽しい時間が作れたと思う。まだ、二人が近くにいるから、こういう計画も気軽に立てられる。環境が変わったら、また同じようになるんじゃないかと思うと怖かった。

極討滅戦

CWLSからお手伝いがカコちゃんを含めて6人集まった。新生の極討滅戦なので、それほど時間はかからないと言われた。

カコちゃんはヒーラーで参加していた。「まずは、説明なしで行くね」と言って、戦闘が始まった。当然分けがわからず、僕とルカ君だけが倒れていた。なんかギミック処理があるらしく僕が処理できず、全滅した。真討滅戦とは全然違うじゃん。でも弱音は言えない。カコちゃんがいるから。
「じゃギミックの説明するね」とカコちゃんがギミック処理の説明をしてくれた。
再開する。超える力は有効なんだけど、全く楽になった気がしない。でもカコちゃんが説明してくれた通り、動くと被弾しなくなった。
再度、ギミック処理を僕とルカ君が間違えて全滅した。
誰も文句いわず、もう一度やろうと言ってくれた。カコちゃんにギミックの処理方法を再確認して再開した。
今度はギミックをうまく抜けて、クリアした。LBは、近接ということで僕が撃たせてもらった。クリアおめでとうとメンバに祝福される。仲間って、ありがたないなと感じた。カコちゃんがヒーラーで参加したのは、僕とルカ君を気遣ってだと思う。被弾してもすぐにHPを戻してもらっていた。カコちゃんはすごいな。かっこいくて、優しい。

極解放

その後、下手な二人でストーリーを進めていると消化していない青いサブクエストがあった。二人で受注してみると極討滅戦が解放されたと出てきた。

「極討滅戦って、なに」と僕。
「これって難しいやつじゃないかな」とルカ君。
カコちゃんにさっそく相談する。
「カコちゃん。極討滅戦というのが解放されたんだけど、これクリアしないとだめなやつかな。」
「いいや、必須じゃないから、やる必要ないよ。でも折角だからみんなで挑戦してみようか。」
カコちゃんにそういわれると、なんか逃げるのが恥ずかしかった。これが男のメンツなのかな。
「そうだね、ちょっとやってみようかな。ルカ君も行くよね。」
「うん、行くよ、僕も」
あまり乗り気じゃないようだけど・・・。巻き込むしかない。
「カコちゃん、僕とルカ君のために手伝いお願いします。」
「わかった。極初めてだろうから、私からCWLSに募集出すね。」

誤解

突然、ルカ君から話があると連絡が入った。
「ベンタ君は、カコさんの性別知ってた?」
「知ってるよ。カコちゃんは、女性だよ。」聞かれてることは分かったけどわざとはぐらかした。
「違うよ。中身の話だよ。」とルカ君。やっぱりその話なんだと思った。
「知ってるよ。カコちゃんの中の人は、男性だよ。」
「知ってたんだ。この間。CWLSの人から聞いてびっくりした。大丈夫なの、ベンタ君は。カコさんが男性で。」
「ルカ君。ごめん。僕も黙ってた。僕の中の人は女性だよ。」
「・・・・。そうだったんだ。」
「ルカ君、僕、いろいろあって、男性の気持ちが知りたかったんだよ。だから男性キャラでプレイしてる。黙っていてごめんなさい。」
「いやいいよ。いまさらもう女性には思えないから。今まで通りでいいよね。」
「いいよ。今まで通りで。」
「それで、ベンタ君は、男性の気持ちは分かったの」
「よくわかんないけど。カコちゃんみてたら、あんまり変わらないのかなと思う。どっちでも、相手に対する思いが態度に出るのかな。なんか、僕のこと、かわいくて、頼りないから守ってあげなきゃって思うんだってさ。」
「わかるは。お互いへたくそだからね。僕たち。」

確認

「カコちゃん、静かな場所でお話しできないかな。」と僕は、彼女の気持ちを確認すると決心した。
「いいよ。どこ行く。」
町はずれの誰もいないベンチに座った。

「あのさ、なんで僕とこういう感じで一緒にいるの。」あくまでも付き合ってるとは言わない。否定されることの保険を思いっきり掛けた。
「変な言い回しだね。中の人が気になるって気持ちが私にも影響するんだよ。」
「山田君の気持ちが影響してるんだ」
そりゃそうだよね。同じ人間なんだから。
「そしたらさ、やっぱり大事にしなきゃと思う訳ですよ。それから、注目してると。一生懸命だし、キャラがかわいい感じの男子じゃん。で、なんか、中の人がきっかけを見つけてきた感じかな。かわいいな、守ってあげなきゃって思ってる。」
「そうなの。僕、そんなに頼りないんだ。」
「ごめん、傷つけるつもりじゃないよ。プレイ歴も違うから。私のできることはやってあげたいと思ってるだけ。」
「そうなんだね。すごく不安になっちゃって。」
「たぶん山田の方がすごく不安だと思うよ。」
よく考えるとおかしな二人だよね。

不安

ゲームに入る前に元カレからまたSNSに連絡がはいった。もう読まずにブロックして全部消した。女性としてカコちゃんみたいになりたいと思って。カコちゃんならばっさり切り捨てると思う。でも、カコちゃんは、あんなのに引っかからないか。自己嫌悪に陥る。
気を取り直してログインした。

カコちゃんだったらと思うと急に不安になった。僕は、ばっさり切られる側のタイプじゃないか。“私”がからかったりしたから、仕返しされてるのかな。
カコちゃんがまだインしてなかった。久しぶりにルカ君と連絡とった。
「こんばんは、ルカ君、元気。」
「ベンタ君、久しぶり、調子はどう。」
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、カコちゃんと僕つり合ってるかな。」
「なんですか突然。言いにくいんだけど・・・・、全然つり合ってないよ。PSも周りの評価もカコさんが断然上だよね。正直、比べる対象でもないよ。」
そこまで言うかな、普通・・・・。
「そうだよね。客観的に見ておかしいよね。本人に聞いてみるしかないか。」
「聞いたことないの。」
「ないよ。だって、いろいろしてくれるし。一緒にても話題ふってくれるし、なんか僕を立ててくれるし。確認する隙が今までなかった。」
「そうなんだ。出来すぎる彼女だね。謎だね。」
不安しかなかった。そんな中、カコちゃんからTellが来た。
「カコちゃんから連絡が来たから、ルカ君、また。」とルか君と別れた。

素の私

食堂で、山田君が待っていた。今日は、私を見て「どうしたの」と聞いてきた。
「うん、山田君のこと知りたくなって。だから、ちゃんと考えたいなと」
「ありがとう。よかった。でも僕、こういうの初めてだから、多分、呆れると思うよ。失望しなきゃいいけど。」
「私も自分で思ってるほどじゃないみたいだから、おんなじだよ。」
「元カレの評価は僕には、関係ないからね。なんか話しやすいし、自分を飾る必要もないですから、一緒にいて楽しいなと思います。」
「そうなんだ。ある意味、必死だったから。私の素が出てると思うし、そこを見てもらえてるんだったら、これ以上隠すこともない。元カレの情報消しちゃうね。」
「どうでもいいですよ。僕には関係ないですから。どうせ忘れちゃうと思うし」
「それは、自信? すごいね。それだけ言ってもらえると安心する。」
「それくらいじゃなきゃこんなことできないですって。だってカコじゃなくて僕ですよ。」