ゲーム

次の年は、普通に本命も穴馬も受かったので穴馬に進学した。彼女のことはすっかり忘れていた。あのSNSを見るまで。
大学で友達とこのゲームを始めた。ストーリーが楽しくてのめりこんだ。それでも一度挫折している僕は、きちんと大学に通い、そこそこの成績を取っていた。就職も決まって、無事4年で卒業できた。ゲームでは、難しい戦闘にも参加して、戦闘の準備のために時間を費やしていた。仕事との兼ね合いで無理が出て、それが、今の引退衝動につながっている。そんな生活をしていたので、僕には彼女なんて居なかった。仕事や日常生活以外のすべてをゲームに費やしていた。多分言い訳だけど。一人暮らしでゲーム中心の生活を誰も咎める人はいなかったから。それでも、挫折の経験から仕事だけには影響しないように生活していた。仕事が忙しくなり、逆にゲームの方に、影響が出て、投げ出した感じになった。

卒業

年末が迫っていたが成績は思うように振るわず、焦りが出始めた。だから、挨拶以上の会話をすることも、僕には苦痛になってきた。模試の結果から僕は、受験する大学を3校に絞った。本命、穴馬、滑り止めという感じだ。僕なりには努力していた。僕なりに。1月が過ぎると登校する機会が少なくなる。2月の2週目くらいに登校日があった。帰り際、彼女からチョコをもらった。バレンタインデーじゃなかったので驚いた。というより普通に驚いた。僕は「ありがとう」としか言えなかった。だって僕はまだ進路が決まっていなかったから。3月初めには、僕の浪人が決まっていた。全部落ちて、親からどうするのか聞かれたけど、今さら他の進路も考えられず、浪人と言った。そのまま3月になり、チョコのお返しもできないまま、卒業した。それ以来彼女とは会っていない。

消しゴム

2学期から朝の彼女との会話が「ごめん」から「おはよう」になった。笑顔つきで。あいさつの後、彼女とマドンナと僕の3人の輪ができていたのは不思議だった。マドンナとも席が隣同士で会話するようになっていた。マドンナは、友達の友達という認識だった。
中間試験のある日、僕の足元を消しゴムが転がっていった。僕も拾えない距離まで転がって行ってしまった。マドンナが落としてしまったようだ。彼女は、クラスのピリピリした雰囲気の中、声を上げることをためらっているようだった。僕は、予備の消しゴムを持っていたので、黙って彼女の机に僕の消しゴムを置いた。試験中なので彼女の方を見たり、話しかけるわけにもいかず、黙って。試験後、すぐに僕は、彼女の消しゴムを拾いに行き、僕の消しゴムを回収した。マドンナから「ありがとう」と言われた。

進路

3年なので進路を決めないといけない。普通科なので半数以上が大学への進学希望だ。僕は何でも平均程度の人間だった。だから目立つことがない。良いことでも悪いことでも。
夏休みに模試があった。彼女もいた。彼女の志望は知らなかった。ろくに話したことなかったから。模試がおわっても手ごたえは感じなかった。空回りしていた。会場から出るとき、雨が降りだしていた。昼はすごく晴れていたのに、夕方近くになり急に暗くなり降り出した。僕はカバンの中に傘があった。それを取り出し、外に出ようとすると彼女が近くて、空を恨めしそうに眺めていた。僕は彼女に声をかけた。
「吉川さん、一緒に帰らない」と。彼女は笑顔になってうなずく。
彼女は話好きなのか、模試できたとか何処受けるのとか、マドンナのこととかいろいろしゃべってきた。僕はドキドキするだけで、聞かれたことに短く答えるだけだった。

マドンナ

彼女は高校3年のクラスメイトだった。僕は、彼女の友達と隣の席だった。彼女の友達は、学年のマドンナ的存在だった。クラスの男子にも人気があった。僕には、その魅力がわからなかった。僕の男友達は、みんな僕が隣の席であることをうらやむけど、僕は別の意味でうれしかった。彼女がマドンナの友達で、僕がいないときに僕の席に座っていたから。僕は彼女の方に惹かれていた。理由なんてわからない。そんなの必要ないよね。だってそう感じたんだから。毎日、学校へ行くのが楽しかった。朝、彼女が座っている僕の席で、「席良いかな。」といって、彼女に空けてもらう。そして彼女は、「ごめん」と席を立つ。それが、毎日のルーチン。

フレになる

「それでは行きますね。準備良いですか。」と僕が確認する。
「はい、お願いします。」
僕にとって、このIDは、何回も来ているなれたIDだ。ヒーラーも回復してくれているので、特に問題なかった。最後のボス部屋の前までくる。彼女はムービーを見ている。
ムービー明けを確認して、ボスに突っ込む。ボスはすぐに倒せた。また、彼女はムービーに入った。その間、ヒーラーともう一人のDPSは、IDから退出した。
彼女のムービーがあけたので、「クリアおめでとう」といった。
「ありがとうございます。せっかくなのでフレンド登録お願いします。」と言われた。
「OKです。」とフレになった。
「Sinki Rouです。シンキと呼んでください。」僕は名前を名乗った。
彼女も「シンキさんですね。私は、Me Recuerdasです。メ・レクエルダスと読みます。レクエって呼んでください。」
IDから抜けると彼女は、クエスト終わらせてきますと去っていった。
引退すると決めた僕は何をやっているのだろうか。

PTを組む

しばらく上空から、彼女を見ていたが、人が集まってくる様子はなかった。残り数分のところで、僕は、着地して、彼女に近づいた。
「こんにちは」と声をかける。
彼女は、「こんにちは、IDに一緒に行っていただける方ですか。」
と聞いてきた。
「はい、一緒に行けますよ。パーティ組みましょう。」
パーティを組んで、21時まで待ったが、他に参加者は現れなかった。
「集まりませんね。二人で行きましょうか?」と彼女に判断を促す。
「集まらないので、二人でお願いできますか。」と、IDに行くこと決めた。
「では、僕のロールは、どうしますか。何でもできますよ。タンクかヒーラーが安心ですよね。」と僕のロールに何がいいか確認する。
「そうですね。初めてのIDで案内お願いしたいので、タンクをお願いします。」
「わかりました。」とタンクに着替えた。

募集

彼女がこの世界にいることは確認できた。だからどうするということもなくこの日は終わった。毎日ストーカーする理由もないため、次の日は、まったり過ごす。数日後、彼女のSNSを再確認すると
「初ID行くことになりました。一緒に行ってくれる人いませんか。21時にサスタシャ前までお願いします。まだPT募集ができません。」
とあった。あと30分くらいだ。僕は慌ててゲームに入る準備を始めた。5分くらいでは入れた。後は、サスタシャ前まで行くだけ。ここで躊躇し始める。普通に一人で行けばいいだろ、とか、コンテンツサポーターで行けるよね、とか。わざわざ、SNSでパーティ募集するほどことかな。サスタシャの上空まで来て、どうしようかと迷う。下を見ると人が一人いる。彼女だ。他には誰もいなかった。21時までは、まだ10分以上あった。

存在確認

キャラ名からロドストでどこにいるのか検索した。ワールドを片っ端から探そうと思ったが、案外簡単に見つかった。おなじDC、同じワールドだった。何日かぶりにログインしてみる。友達を探す以外の目的はなかった。でも探す方法が思いつかない。そうだ、まだ、始めたばかりなら、頻繁行く場所は、ジョブクエのギルドか暁の砂の家、どちらかだ。彼女は弓術士だった。僕は、槍術士だったのでホームタウンは同じグリダニアだ。とりあえず、弓術士ギルドで張り込んだ。張り込むと言っても、ギルド内の椅子に座って、入ってくる人を確認するだけだ。ふと、俺何してるんだと思ったが、特にやることもないので、張り込みを続けた。しばらくすると彼女がギルドに入ってきた。ギルドマスターに話しかけてしばらくすると、くるっと向きを変えて、走って出て行った。本当に居たんだ。でも、記憶にいる彼女とそのキャラが結びつくことはなかった。

SNS

帰宅しても、もうゲームには入らない。ネットを見ていた。友達のSNSを確認する、今みんななにをやってるんだろう。
会社の知人、大学の友達、高校の友達、中学に居たやつかな。思い出の中にもいない人たちをSNSは僕に推奨してくる。その人たちを見て回った。その中に記憶に残る人がいた。その高校の友達のSNSが目に留まる。「オンラインゲーム始めました。」
僕が引退を宣言したゲームを始めたんだ。
初期装備の彼女のSSが上がっていた。「ミコッテか・・・。」
止めるゲームなのでリプライする気はなかった。それに、今さら何を話せばいいのかわからない。キャラ名と武器からクラスは分かった。DCやワールドは分からなかった。探してみるか。